long(op) | ナノ



「やり過ぎ」

「所詮役にたたないクズだ」


尋ねたその背はやっぱり無表情だった。

その赤い背についていけば用意の整った彼の部屋についた。カチャリとドアを閉める音を確認すると彼は一匹の電伝虫を手にとった。


「…CP9ロブ・ルッチ、スパンダイン長官を─

─…はい、任務は完了しました。これより護送船にてエニエスロビーに向かいます。支障はありません」


そしてガチャリと受話器は置かれた。


「海軍本部中尉が死にそう」

「支障は無いはずだ」


どかりとあたしの向かい側のソファに腰を下ろした彼は傷の手当てをするでもなく、ただその細く鋭い目で見ていた。慣れたようで、いつもとは異なった空気の重さを感じた。


沈黙を破ったのはルッチの一言。


「覚えているか」


その声に視線を机の上に向けた。

──どこからか広げられた海賊旗。机いっぱいを包む黒とドクロは所々が赤く色濃くなっている。彼の血なのかそれとも誰か別なのかは分からないが、硝煙の匂いが混じって嗅覚を刺す。
しかしそんなことあたしにとってはどうだって良いことだった。

フラッシュバックとはこういうことをいう。

燃え上がる炎の中あたしはうつむいて彼の腕に抱かれて泣いた。霞んで、よく周りの景色なんて見えなかったけれど遠い海の上で揺れていた黒は、はっきりと見えた。


「う、そ」

「任務は遂行した」


意識が遠のいた気すらした。
今思えば、まるであの惨劇が昨日のように思えるほどに鮮明だった。



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