─7年前。
暗く灯りもまばらな小さな島の沿岸に場違いなほど大きな船が停まった。
「エムさん!島の沿岸に到着しました!」
「…そう」
甲板では大勢の海兵たちが岸に降り立って行く。あたしは未だにさっきまでの任務の気だるさと一種の嫌悪感に気分を悪くしていた。夜の暗さで周りがはっきり見えないのが唯一の幸い。それでもその頭を無理矢理向けた。
「ロブ・ルッチ氏のお姿を確認!総員並べ、敬礼!」
「「「はっ!!」」」
船から漏れる灯りのみの薄暗がりは歩み寄ってくる小さな影をうつした。
「お疲れ様」
「疲れてなどいない」
先にあたしを迎えたこの船は任務を遂行し終えた彼を乗せ一路、不夜島へ向かう。
「エム」
「なに」
「ついて来い」
彼は甲板で待っていたあたしに目も合わせずに中へと向かった。その声に連れられ振り返って彼を見た時、思わず目を見張った。
彼の背にはおびただしい赤。明らかに、返り血なんかじゃない。
「ルッチ…背中」
「放っとけ」
噴出すように溢れている赤はその背を染めていたのに、上半身を焼けるような赤で包みあくまで無表情だった。その背は六式使いのあたしから見ても眉を潜める傷だというのに、普通の人間から見たら立っているのが不思議なくらい。
一般の海兵が黙って見ていられるはずもない。
「手傷を負っておられるではありませんかっ?!医療班を直ちに─」
礼儀正しそうに敬礼をしていた海兵の一人が声をあげた。
「そんなものは必要ない」
そんな声にも彼は視線を向けることもなく告げた、その小さな身体からは想像も出来ないほどに低く殺気さえこもった声で。場の雰囲気が一気に張り詰めた中、ルッチの止まることの無い歩みの音だけがカツカツと響いた。
「し、しかし…っ!そのような大ケガ放っ─」
途端、ルッチの姿が消えた。
もちろん消えたわけじゃない。
「がっ……?!」
胸を一突きされた海兵の前に彼はいた。
「中尉?!」
当然、彼の人差し指は鮮血に染まってた。倒れこむ海兵に周りはすっかり青褪めていた。 誰も彼を恐れてその海兵には近寄らない。その視線の全ては、彼にあった。
「俺より重症だ、さっさと手当てしてやれ。死ぬぞ」
そう言うとまた彼は元の歩みに戻っていった。まるで何事もなかったような表情で。
「…っが!」
「中尉!!は、早く医療班を!」
「しかしロブ・ルッチ氏は…っ?!」
←|back|→