「何を言っておる。エムも充分に若いじゃろう、がっ…!」
「カクからみたらもうおばさん」
本当に、5つも離れた子に若いと言われてもあまり実感はわかないけれど。数えてみればあたしもまだ二十代になったばかり、まだ若いのかななんて思わず苦笑いが漏れた。年なんて久しく意識してなかったしね。
ちらりと壁を見れば修練用の強化石もすっかり傷だらけ。あとで修復するのも大変そうだ、なんて呑気なことを考えながら彼の斬撃から身を守る。
「嵐脚ッ!」
風のような斬撃が空を切っていく。もちろん、あたしめがけて。
「甘いよ、カク」
「…っ?!」
彼がめがけて攻撃した対象は既にそこにはいなくて。彼の喉元に人差し指を突き立てて背後にたっていた。
「─は…っ、ワシの敗けじゃ。強いのぅ」
「お疲れさま、怪我はない?」
訓練の終了を意味するため息をカクがついたことであたしはその人差し指をおろす。彼を覗けば、所々に傷のついた顔が少し悔しそうに笑っていた。
「大丈夫じゃよ。エムこそよく無傷で立っていられる、大したもんじゃ」
汗を拭えば彼はまたおじいちゃんくさい声をあげて腰を下ろした。あたしも縛り上げていた乱れた髪を一旦ほどいて、同じように彼の隣に座った。
そのとき背後で、ジャリっと瓦礫を踏みつける音がした。
「まったくテメェエムに歯もたってねぇじゃねえか。情けねぇな!」
「なっ?!ジャブラおぬしいつからそこにおった!」
あぁ…そういえば、ギャラリーがいたことを思い出した。
「ついさっきからね、ジャブラ」
「あぁ。つーかいくらエムが強ぇからってあの負けっぷりはねぇだろ、ぎゃはははっ!」
「うるさいわい!おぬしじゃってエムには勝てんじゃろうがっ!」
「うるせェ!お前よりは勝負になってんだ狼牙!」
ジャブラはお腹を抱えて笑いながらあたしたちの正面に腰を下ろした。
CP9でも上司達とは一線を置いていた若年組のあたしたちは一緒にいることも多い。
「しかしエム、お前のその技は一体どうなってんだ?不思議で仕方ねぇよ」
「あたしの?」
「…エムのその“気配”を感じ取る技…、どこに居ようが次にわしがどんな技を出すかまで、みんな見抜かれてしまう」
“あたしの技”と二人が呼ぶのは、多分。あの日気付いたおかしな能力。
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