「お、お疲れ様でしたっ!」
「「「お疲れ様でしたっ!!」」」
誰とも目を合わすことなく船の中に入った。とにかく体中、血なまぐさい。
「…」
ゆっくりと船が岸から離れていくのが分かる。廊下の窓から見えた島は、いつか見たあの景色によく似て真っ赤に燃えていた。
「ばか」
扉の取っ手に触れたとき溜息が漏れた。どうして気配も殺気も隠そうとしないのよあのバカ。
「ルッチ」
「遅かったな」
扉を開けるば肩に降り立ったハットリとソファにでかでかと座るシルクハットが血まみれのあたしを迎えた。肩にとまったハットリの頭を一撫でする。
「ぽっぽー」
「ただいまハットリ」
だけどハットリはあたしがルッチに捕まると同時に飛び立ってしまった。
「やたらに殺気撒き散らして、何」
あたしを胸に抱いても依然として彼はその殺気を抑えようとしない。もし部屋に迂闊に近付いた人がいたらきっとその覇気にあてられる。
「あいつらにはここには来るなとは言ってある」
少し鋭くなっただろう爪が背中にちくりと触れる。
「それでもお前に近付こうなんて奴が居るんなら別に構わないだろう」
まだ活きている鮮血はあたしと彼の服を汚し顔を染めた。とても嗅ぎ慣れた匂い。
あたしにとってはただの汚れでしかないものでも、彼にとっては自分の血すら駆り立てる興奮剤。
ぺろりと這わせられた舌に身体はドクリと脈打つ。
「時計、返す。ありがとう」
「あぁ」
机の上に手を伸ばしてそれを置けば獣は逃しまいと噛みつく。
「やめ、て。ルッチ」
豹の牙が首筋にぶつかる。ざらざらとした、人のものではないものが這う。
「シャワー、浴びたい」
「何人殺した」
不快そうに眉を寄せる目。
下等な血だと蔑みながらそれでも豹は背中から爪をはがさない。
「793人、捕縛ゼロ」
かと思ったら中途半端に獣化した豹に抱きかかえられたままふわりと宙を浮く。
「…降ろして」
「俺に命令とはいい度胸だな」
そのままバスルームに連れてこられたと思ったら、次の瞬間放り込まれた。もちろん服は着たまま。
「いっ…た、」
「服は脱ぐか?」
「………アンタが出て行ったら」
ひどく愉快そうにニタリと口角を上げた。
「残念だな」
─キュ
そう呟く豹の妖しい笑みも血にまみれたあたしも、降り注ぐ生温いシャワーに濡れた。
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