「衣服に食糧…最低限必要なものは揃えるか」
「…!……?」
「…それはお前に必要なものじゃない」
宿場を出たすぐ向かい、俺が船を着けた街はそれなりの賑わいを持っていた。宿場で借りた白いワンピースを着せた娘を連れて俺は街に出た。
「お似合いですよー、こちらのスリットドレスなんかもいかがですか?」
「?」
「でもお嬢さんにはシンプルなワンピースの方が引き立つかしらー。こんなのはどうでしょお父様」
「……………5、6着見繕ってくれ」
いつから俺はこの娘の父親になったのだなど、初めて逢ったような人間にぼやいたところで仕方が無い。大体なぜ俺は保護者代わりのような真似をしているんだ、俺が聞きたい。
「ありがとうございましたー」
「………」
「…顔を上げろ娘」
「………」
謙虚なのか引っ込み思案なのか、少なくとも慣れない扱いに困惑しつつも罪悪感を抱えた色を前面に表している少女は申し訳なさそうに俯いたままだ。
「気にする必要は無い」
「……」
良い人になりたいわけではない、だがこんな少女に貸しを作る気も到底無かった。ゆえに気にするなと説得力のある言葉など出せるわけもなく気まずい距離感のまま、立ち並ぶ店々の品に必要か否か見当をつけながら通りを歩いた。
妙にげひた笑みを浮かべた輩とすれ違う、娘がいた場所はこの街の真裏とはいえ遠くはない。この道はあの裏町へ通じているのか。
もうこれ以上進み続けるのはよそうと踵を返す。
「……!」
「エムじゃねぇか…どこ行ってやがった」
聞き覚えの無い名に疑問符がわきかけたがその掴まれた手首の先にいた人間を視認して納得する。
今更だけど何も知らなかった今更だけど
こんな形で知ることになったのは、まったく不愉快だが。
END
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