……………さてどうしたらよいものか。
音もなく小さな寝息をたてて、少女はそこでまぶたを閉じていた。
「そこで寝ろ娘」
部屋の片隅に座りこんでいた少女は申し訳なさそうな、驚いたような顔をしてこちらを見た。まるで自分がこんな扱いを受けてよいのか躊躇っているように。
「俺のことは構わん。明日には発つ、寝ろ」
酒に手を伸ばそうと振り返った俺の右腕の裾が、遠慮がちに引かれた。
「…俺は男だぞ」
そんなことに少女は意味など感じていないように笑った。
夜を共にするという本来の意味をおそらくこの少女は知らない。
「……先に寝ていろ。俺は用を済ませてから寝る」
世間の常識も普通の生き方さえも、君はあまりに何も知らなすぎるのだ。
気付けば腕の上に頭を乗せた少女は相も変わらず小さな寝息を立てていた。目につくのは長い睫毛と肉付きの乏しい白い肌、柔らかな寝息をたてる、幼さの残る整った顔立ち。
寝具の上を泳ぐ長い髪は痩せてはいるが月明かりに照らされ美しく輝く。
「……バカバカしい」
一撫でしてやればすりよるように身を寄せて、安心しきったように微笑みながら寝息をつく。
反射的にピクリと反応した肌の上には滑らかな指先。
掴めぬこの手がうらめしい君はどうして罪作りな。
揺れる髪、柔らかな肌、温かい身体はそれがどれだけ美しいのか知らないのだろう。少女に誘われたなんて、バカバカしい。
END
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