1万打 | ナノ
(現パロ×社会人ルッチ)
テレビが平和な日曜日の終幕を告げた。
あぁ明日からまた一週間が始まるのか…と気分を憂鬱にさせるアニメが終わったのだ。あいこになったじゃんけんの続きをさせる気がない一児の主婦の笑い声はそんな気分をさらに煽る。時計の針が7を回った、今日の家主の帰宅は普段よりちょっと遅い。
「あ、おかえり」
「…あぁ」
元々一人で住むには部屋が余るほどの所を借り入れていたのだ、居候の一人や二人転がり込まれて不足はないと言っていたではないか。そうぶーたれても、「転がり込まれて歓迎すると言った覚えはない」と言われておしまいだ。こんのむっつりやろー、手だけはしっかり付けやがって「嫌なら出ていけ」ごめんなさい。
「グラタン食べる?」
「……」
「何よ、その目」
「…いや、あれはグラタンだったんだな…」
「なんだと思ったのよ」
「凶器」
「殺すぞ」
鷹の爪が彩りも鮮やかな旨辛ホワイトソースならぬレッドソースがお気に召さないのか。常にシワの入った眉間をさらに寄せながら、着替えてくるとだけ言って部屋に行ったきりのわがまま家主の意見なんてそっちのけ。昼間に作っておいたグラタンをオーブンに入れる。あ、チーズ乗せとかなきゃ。
「ふっふーん、今日のは自信作」
「自覚ねェのか」
「なんの」
「…この味障が」
「文句あるなら食うな」
「……水」
「何、辛いの好きでしょ?」
「…いいから持って来い」
「あ、もしかしてルッチ辛「襲うぞ」ただいまお持ちします」
もちろんあたしが味障なんじゃない。ルッチのグラタンにはデスソース(タバスコの20倍、世界一のホットソース)がたんまり入れてあるのだ、あんなのでキスされるなんてたまったものじゃない。
「…」
「…大丈夫?」
ちょっと遊び過ぎたか?
「…風呂」
「わいてるよ」
「俺が上がってくる前に覚悟を決めておけ」
「ひっ…」
なんだかんだ目の前の皿を綺麗にしたと思ったら、ルッチはあたしをギロリと睨み付けて席を立った。さすがにばれたか。何の覚悟か知らないが、荷物をまとめておく気はないぞ。
「…お皿洗うか」
あんな決定的な精神疾患野郎も、会社では随分必要とされているんだろう。基本的に定時には仕事を終えてきっかり帰ってくるのに、今日は休日出勤、ひいては1時間遅かったのだ。あたしみたいなどこにでもいる平凡な女子とは違う。こんな立派なマンションに住まうあたり、大体予想はつくがいくら貰ってるんだか。そんなルッチのすねっかじりは大人しく家事をやって、たまのいたずらで息を抜くのが一番だ。
「エム」
「わっ」
「覚悟は決まったな」
「ま、まだ洗濯が終わって…っ」
「知るか」
「わーわー!何言っても出てかないぞー!」
「何言ってんだバカヤロウ」
洗濯をしようと脱衣所へ衣服を取りに行ったが最期、湯上りのじっとりとあたたかい上腕二頭筋にひょいと抱えられあたしはこの広い家の最奥へ誘拐された。
「…いーたーいー…」
「腰がか」
「くちびるだよーあー」
「てめぇが入れたんだろうが」
「このお盛るッチ」
「先に行くぞ」
ハットリに餌をやると、支度の整ったルッチは先に行ってしまった。あぁあたしも急がなきゃ…、くっそー痛いわ、ふざけるなよあの万年発情期。こっちは人並み以下の体力しか持ってないっていうのに。
「ハットリ行ってきます」
「クルッポー!」
駆け足気味で飛び出る玄関。鍵鍵…っと。
「?」
トゥルルル…ピッ
『…なんだ』
『ねぇ、お隣さんの落し物かな?ノブに、リングかな?ギフトボックスの入った袋下がってたんだけど。これルッチの?』
『……バカヤロウ』
『ねぇ管理人さんに持ってった方がいいかな?』
『…電車が来た、切るぞ』
『ちょっ、ルッチ!』
「いつもありがとう」
感謝の気持ちを素直に言えない彼の精一杯
END