short(op) | ナノ


「来ると思った」

「さすが、じゃな」


わざわざ開けておかれた窓からは夜の心地よい風と共に、月に掛かる影二つ。


「久しぶりね」


その姿を見るのは、と言って暗い部屋の中から聞き慣れた柔らかい声。人工的な光が一切無い部屋の中で、何が揺れた。


「何しにきたの、職長さん?」


窓際まで出てきた事で伺えるようになったその表情は、やはりいつものような笑顔を浮かべて。鋭くその眼が冴えた。


「分かってんだろう」

「そうね。わざわざ開けっぱなしにしてたんだもん」


嫌味を吐くその言葉さえあんまりにも綺麗に、笑ってやがった。


「わしらは今夜任務を終える」

「そう」

「ルッチが消失する事で、おぬしに疑惑がかかる可能性もある。わしらと共に引き上げじゃ」

「了解」


エムはすっかり元の口調に戻ると、既に整っていた身支度を確認した。


「政府の護送船が海列車に先立って出る。おぬしはそれに」

「分かった」


それだけ告げるとカクは、するりとベランダをすり抜けていった。


「ルッチ」


不意に呼び止められた名前に振り返れば。


「サヨナラね」


哀しそうに、笑った。
任務が重なるなんて事はおそらくもうありえない。これがエムとの本当に最後の別れ。


「そうだな」

「相変わらずつれないわね」


綺麗に笑った顔は張り付けたような表情で、お前はいつだって誰にでも自分を隠すように笑っていたから。


「…エム」





グッバイブラックマン
サヨナラのキスはいらない、だけどせめてお願いだから。





「嘘」

「…ふざけるな」


おもしろそうに笑って、その腕を背に絡めて優しく口付けられた、その唇は語る。


「貴方の前でのあたしがアタシ」


愛してる、なんて安い言葉は要らないから。どうかこのアタシを忘れないで。



END



show me truth
(君の本当を見せて)