継続は力なり、という言葉がある。彼女はとにかく続かない。特に一瞬で熱が入ったものは同じ速度で冷えていく。どうしたものにも飽きっぽい性格だからか、仕方がないのだ。
「ほっ、ほっ」
「…」
「やっ……あーだめだー…」
「…」
「ね、冷蔵庫にまだ牛乳あった?」
「……あぁ、あるだろ」
「そっか」
エムはのそっと起き上がると、それまで必死で握っていたコントローラーを放り出して台所に向かった。GAME OVERの表示のままコンテニューを選択しないあたりを見ると、どうやらその暇つぶしにも飽きてしまったらしい。引っ張り出してまだ30分と経たないのに飽きたところを見ていると、ああやはり彼女は堪え性というか、忍耐というか、そういうものが欠けているのだと思い出す。
「パウリーも、ミルクティー、飲む?」
「…あぁ」
という俺の方も、エムの暇つぶしの相手をするでもなくごろりとベッドに横になって専門誌を読んでいたところまるで一人の休日を過ごすのと変わりなかった。勝手に人の家に上がりこんで「弟のお古見つけたから持ってきた」と言ってコードやテレビのセッティングを始めるくせに、「一緒にやる?」「やんねぇよ」「そう」と別に俺を引っ張り出すわけでもない。こいつは本当に、俺には理解できねェ女。
「はい」
「おう」
「パウリー、彼女できた?」
「いたらお前の暇つぶしに付き合ってねェよ」
「そっか」
自分のことを話し始めるでもなく俺に世間話をふっかけてくる。ただ間違いないが、エムは俺に対して恋愛感情は持っていない。これは断言する。この間だって俺が昼寝してる間に勝手にシャワーを浴びて俺の服を着替えがわりに着てやがったくせに、よりにもよってだるだるのグレーのスウェットの上下を着てやがった。
「お前、もっとこう…あるだろ」
「何が」
「…もういい」
「Yシャツ一枚で『パウリー…』とかやってほしかった?」
「やめろハレンチ」
ほらね、そう言うでしょ。と、しれっとした顔で言うので深追いはしなかったが、実際そんな格好でエムが隣で寝てたとしても、俺は何もできないだろう。
「ねぇパウリー」
「なんだよ」
「パウリーとあたしって、友達?」
「…どうだかな」
「同居人?」
「お前別に家あんだろ」
「うん。実家近いし、たまに帰るし」
「じゃあ違うだろ」
そのくせこいつは押しかけてきても、絶対帰る。
「恋人?」
「それはちげぇ」
お前何人男いるんだよ、俺でさえ4人は知ってるぞ。
「…ま、何でもいいや」
二人の関係に名前が付いた瞬間、きっと彼女はその関係に飽きるのだろう。ゆっくりと熱が入るものの息は長いはずだと、俺は目を閉じた。
白濁した世界の中で出会った絶妙に混ざり合う距離感には名前がつかない
END
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