夕陽が沈んでいく水平線を船着き場からじっと見つめている。サンジがあの海の向こうへ旅立ってから2年が経っていた。
正確には旅立っていったんだと聞かされたのだ、いつもの買い出し船じゃなくて、サバガシラ3号だという平和な顔をした船に乗ってきた極道コンビに。
「何しろ急だったからな、とんでもねェ雑用があいつを海賊やろうって誘うんだから」
「…それで、おじいちゃんは?」
「オーナーゼフはお前、サンジの船出を見送ったよ」
クリークにやられた海上レストランの修繕でここのところは縮小営業中だそうだか、相変わらず海のコックさんたちは立ち寄ってくれるお客様のため料理を作っているんだという。
2年なんていう月日はあっという間だ。サンジによく似た似顔絵も見た、ああ元気にやっているんだと思うとなんだかホッとしたというよりもむしろ、ムカムカした気持ちになったりもした。
司法の島を襲撃なんて大それたことをやって、あいつちゃんと料理作ってるんだろうか、脚ばっかりで腕は落ちてないんだろうか、最後だと知っていれば一言くらい気の利いたことが言えただろうか、とか。
それもこれも2年という月日が霞ませていった。麦わらの一味壊滅?バカみたい、あいつが美女の上で腹上死する以外に死ぬわけない。
「…一言くらい、」
あれがあいつとの最後なんだって分かってたら、いっそ素直になってしまいたかったのに。
この船着き場にひょっとしたらあのシマシマ柄の買い出し船がやってくるんじゃないかと待ち続けた幼かった自分を思い出す。結局今日も来なかったと何度泣いただろう。涙を拭って顔をあげてもそこには沈みかけた夕陽しかなかった。
顔をあげても、夕陽しか見えなかったはずだった。
「シケたツラしてんじゃねぇよ」
茫然としていれば、なんだ、化け物でも見るような気分か?なんてスパーっと気持ち良さそうに煙を吐く男。
「サ…ンジ…?」
「おう」
「本物?」
「ああ」
髪が伸びた。髭も揃えているのだろうか、随分雰囲気が変わったようで、それはあの憎たらしいメロリンラブコックのままの姿。
「幽霊じゃない?」
「あァ?この黒足が目に入らねぇか」
「何、その、やっすい台詞」
ぽろぽろ片方ずつ涙が溢れてくる、サンジは呆れたみたいな顔をして、ゆっくり近付いてきて
「お姫さまにはプリンスのキスが必要かい?」
「誰が、プリンス」
そんだけの憎まれ口がたたけりゃ上等だ、と笑う声。そしてひどく優しい一言が顔をおおっている手のひらの裏側から聞こえた。
「…?」
顔を上げてもそこにはいつかの夕陽だけがあたしを見ていた。
今はこれが精一杯でdon't say good-bye.
END
thank you 瞑目
合流前、カマバッカ王国に一度寄り道させてもらったということで(苦しい)
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