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「ねぇ、ルッチ」
教えて?とすがられた少女の腕に抱かれていたのは、所詮教本という代物。
「そんなもの誰に…」
「ん、チョーカン」
あのバカ。
「これは」
「…6?」
どうして4+5が6になる。
「ぽかったんだもん」
「バカヤロウ」
当てずっぽで計算ができるか。
類稀な殺しの腕幼い容姿ゆえのずば抜けた諜報技術。それ以外の一般教養はまるで駄目ときた。
「分かってるのか、分かってないのか。はっきり言え」
「分かってるよ」
「…これは」
「3!」
「…バカヤロウ」
この少女がたとえば諜報部員などではなくてたとえば普通の子供だったとして。
「ルッチ」
この少女は生きていけたのか。
「なんだ」
膝の上に乗っているにも関わらず重量を感じさせない身体はその身体いっぱいで俺にしがみついていた。
「呆れた?」
普段滅多に聞くことのない消え入りそうな声はやっとの事で俺に届いた。
「…キライに、ならないで」
ワタシを捨てないで、なんて。
君にそんな不安は要らない切望されたって、離すものか。
何が欠けていたって構わないだろう。
「バカヤロウ」
君はここに身を置いた天才なのだから。世界の罪も、俺の理性も、赤く染めてゆけ。
END
赤い天才(その少女殺しの天才につき)
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