5
『エム』
殺さないでくれ。
『愛している、だから』
殺さないでくれ。
「エム」
「……る、ち…」
なんて卑怯な夢。
「…あたしもお酒」
「寝起きから飲むな、バカヤロウ」
すっ、とテーブルの上に上品に用意された紅茶。目の前には、それとはうって変わってワインのボトルを持つ男。仕方ないから、差し出された紅茶を口にしたら案外落ち着けた。
と同時に、目からは涙。
「……」
別に流したくて流れてるんじゃない。だけどあたしには止めるすべも分からなかった。
「お前がいつまでも後悔するべき事じゃない」
そう言ってあたしの目を捉える。がらりと変わった視界には天井と見慣れた顔。
「分かってるよ」
それが任務だったんだから。
「悪いのは、彼だったんだから」
任務に家族も恋人も仲間も関係ない。罪を犯した人間は裁かれなければならない。
「殺さないでって、すがられた」
─愛してるから、殺さないでくれ。
なんて惨めで、醜い姿。
「ズタズタにした」
彼で真っ赤になった、あたし。一筋伝った涙も、赤く染まった。
「酷く汚かった」
もう彼の名前も、口にしたくなかった。涙の跡が残るとこをその赤い舌で舐められて首筋に埋められる。色んなとこが締め付けられて、赤くなる。
「ねぇ、ルッチ」
あたしがもし任務にしくじって、ヘマしたときには
私を殺してくれますか?愛してたから、私が殺したの。
「バカヤロウ」
END
最期をせがんだ(特権、最後に愛する者の目に映ることができるのは、自分だけ)
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