short(op) | ナノ


3


「汚い」

この女はよくそう言う。
“綺麗”とか“可愛い”なんて形容は滅多に使わないくせにそれだけはその一言で表す。


「行くぞ」

「うん」


ぐしゃりと醜い音が足元から聞こえた。今回の俺たちの任務は標的を“始末”すること。“後片付け”は任務ではなかった。
たとえば“汚い”というならば、それはこの肉塊の事をいうのではないか。

指先と足と身体中にかかった赤はやや乾き始めて黒く変色していく。返り血など浴びないに越したことはないが大勢を殲滅する任務だとすればそれも構った事ではない。


「エム」


お前はその血を汚いと思っているわけではないだろう。汚いと形容しているのはそのもの自体ではないはずだ。

海列車は速度と波に揺られ乗客を揺らす。列を挟んだ向こう側からは一向に返答はない。


「エム」


声と共に視線をかければそこには規則的に呼吸をして綺麗な顔が瞼を閉じて。





夢の中で誰を見ている?





一筋の涙は何も返事をくれないから



END