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夜、暗闇なんて訪れる事を知らないこの島を黒雲が包む。吹きしける暴風雨に、波は荒れ木は音をたててしなり冷たい雨は石すら削る勢いで落ちてくる。
「何をしている」
問いかけたところでその背中は何も答えない。だからこそ問いかけたつもりなんてない。
「風邪をひく、部屋に戻れエム」
世界政府の殺し屋が風邪で倒れるなんて笑い話は聞きたくないものだ。
「あなたもひくわよ、風邪」
「尚のこと戻れ。道連れはご免だ」
風に軋む窓の外を覗けば橋の終わりの辺りにその腰を据えたままの人の影。わざわざこんな気候の中外気に身を晒し、あろう事が橋の上に座り込む姿。
そんなことをする変わり者の知り合いは、生憎一人しかいない。
「気は、済んだか」
カツンと鳴った足音は降り頻る雨音に消えた。
「…ん…もう少し」
もう少しだけいさせて。
その背中はそう言って、震えていた。
痛いくらい打ち付けてそれでもきっとこの罪は洗い流されない。
何にそんなに苦しみ続けるなんて愚問。やがて立ち上がるその身体は俺が抱えてやる。
END
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