「サンジあんたまたおじいちゃんとケンカしたの!?」
「あァ?エムには関係ねぇだろうが!」
「うっさいボケ!ピンヒールキーック!」
「がはっ」
「またサンジのやつエムちゃんにやられてんじゃねェか」
「いい気味だ。あいつはエムちゃんには甘ェからな」
うっさいわボケナスども。俺は死んでも女は蹴らんだけだ。
「よく来たエム。仕事は順調か」
「もちろん、特におじいちゃんとこのレストランがうちのお得意様」
「そりゃあ繁盛なこった」
エムんトコはうちのレストラン御用達の仕入れ先。まあ俺が買い出しに行くこともあれば、しばらく行っていないと勝手に来ることもしばしば、このレストランの旗揚げ、つまり俺がガキの頃からの知り合いだ。
かわいい?あぁ、見た目はな。中身はとんでもねぇじゃじゃ馬娘だ、ちっともかわいくねェよ。
「近頃この辺は海軍の力が落ちたんだか知らねェがゴロツキどもがうようよしてやがる」
「うん、気を付ける」
「サンジのやつを送らせようか」
「いいって、あんなのよりよっぽどあたしの方が強いんだから」
「あァん?!おめー俺が手ェ抜いてやってんのが分かんねぇのか」
「何よ、おじいちゃんのすねっかじりが」
「んだとてめぇ!」
「やめねぇかチビナスども!」
エムは俺と同じようにジジイに足技を教わってきた。だが言ってもエムは女だし、最近は妙に色気づいちまったくせに自覚がねぇから厄介なもんだ。
「べーっ」
「けっ、ガキかお前は」
じゃーねーと、エムの声と共に船はあっという間に水平線へ向かって小さくなっていく。
「なんかエムちゃんの船にどんどん近づいてる船がねェか?」
「おいサンジ、ありゃあこの前…」
「お前がのした海賊の船じゃねぇか?!」
「なんだと…っ?!」
見ればここから出て直進するエムの船に近づく黒旗を掲げた船。
「あンの…馬鹿野郎…っ」
「なんなのよアンタたち!」
「暴れんじゃねぇよ。なぁに、お前さんには恨みはねぇんだが、あそこのクソレストランとよしなにしてる娘がいるってーのを聞いてよォ」
「お前を人質に今度こそ捻りつぶしてやろうって算段だ」
「何言ってんのよこの卑怯者!」
「おーおー口には気をつけな」
「一度やられてまだ分かんないの?あんたたちなんかにあそこのコックは潰せやしない!」
「手ェ出さないでおいてやるつもりだったが…いーい女だ躾してやんねぇとなぁ」
「いや…っ」
「さーて服は、が…っ!」
「!」
ああそいつは確かにいい女だぜ。
「レディに対するマナーがなってねぇのはてめーらの方だろうが」
「こいつはあのレストランの!」
「全員残らず三枚におろしてやるから覚悟しとけ!!」
「馬鹿野郎!だから言っただろうが!」
「だって…!」
「だってじゃねぇよ!お前は女だろうが!俺に守られとけよ!」
怒鳴りつければ一瞬怯んで、次の瞬間またいつものように蹴りが飛んでくるのかと思えば心なしかエムの目が潤んでやがるから…なんだやっぱりこいつも、女なんだと。
「サン、ジ」
「…まぁこれに懲りたら次からは」
「好き勝手言いやがってふざけんじゃないわよ!」
弱々しい平手が左頬に飛んできた。
照れ隠しバレバレなんですけど「ってぇなばかやろう」
守ってやるから、強気でいろよ。
END
thank you 江戸物語
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