永遠に訪れることの無い夜。
誰が決めたでもなく就寝時間があるのはなぜか。
「「エム一緒に寝よう」」
…もう、勝手にしてくれ。
「あなた、いいの?アレ」
「…知るか」
新しい紙面に目をやりながらそのやりとりに耳をかす。阿呆らしくて敵わない。あのやりとりに、今更何を言う気にもならない。
「へ?」
当の本人が、一番分かっていないのだから。大の大人がナンパする相手が少女、なんて滑稽だ。
「一人で寝るのは寂しいじゃろう?」
「え、や、そんな」
「もしかしたらいきなり変なオッサンのオバケとかが隣に寝てたらヤだろ?」
「………それはヤ。すごい嫌」
「じゃからワシと」
「オレと」
「「一緒に寝よう!」」
ガキを自分の部屋に勧誘なんて政府の殺し屋も堕ちたもんだ。今からオバケより変なオッサンになろうとしてんのはどこのどいつだ。
「…でもね、あなた」
カリファが新聞の向こう側から指差し。
「エムは断らないわよ」
…バカバカしい。
読み残しの多い新聞がバサリと耳障りに音をたてて閉じられ俺の重い腰も持ち上がる。
「へ?」
「行くぞバカヤロウ」
首根っこ摘みあげて、野獣から拉致。ギャーギャー騒ぎ立てる音も遠ざかっていった。
「妬いたの、ルッチ?」
くすくす笑う表情はまるで子悪魔。憎らしげでそのくせたいそう可愛い。
「バカヤロウ」
「きゃっ!」
こいつの部屋のベットの上に放り投げるとスプリングが軽く軋む音と矯声。
「一人で寝ろ、誰が来ても俺以外入れるな」
それだけ言って自室に戻ろうとした身体が止まる。
「…ルッチ」
スーツの端を握った小さな手。
「…なんだ」
ほんのり赤みがかった頬、言葉にするのをたじろぐ唇。
悪魔のくせに、たいそう愛おしく。
「一緒に…寝よ?」
──…だって、
お化け怖いもん…俺がオバケになっちまったらどうするつもりだ。
END
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