いかないでよ夏 | ナノ
私がテニス部のマネージャーを務めて三年が経った。あっという間すぎてこんなに時間が過ぎたのに気づかなかった。気づいたのは全国大会が終わってから。みんなの涙する姿を見てああ、終わったんだなって。その時あまりにも早すぎて呆然と立ち尽くす私の頭を幸村が優しく撫でてくれたのを今でも覚えている。そんな暑い夏が終わって数日後一斉送信で幸村から皆へメールが届いていた。

「今夜皆で花火大会に行こう」

絵文字もないシンプルなメールに返信をしようとしたら、赤也からもメールが来て見てみると幸村への返信を間違えてみんなに送ってしまったようだ。コートの上では怖いのにこういうところはかわいいんだなと思うと自然と笑みがこぼれた。

約束された時間に待ち合わせ場所に行くとすでに皆が来ていた。皆の私服を見るのは中学一年生以来だ。やっぱり三年も経つと服装も変わってくるな。

「先輩の浴衣姿かわいいっすね!」
「あはは、そう?ありがとう」
「浴衣だとあんまり物が食えねーだろ」
「私、丸井みたく大食いじゃないんで」
「幸村と真田が先に場所とっておいてくれとるぜよ」
「あ、そっか。こんなに混んでるから場所とらないとダメだよね」

さすが部長と副部長だなと思いながら、二人が待っている場所へと向かった。そこには真田と幸村がシートを敷いて座っていた。きっとシートを用意したのは真田だろうなと頭の隅っこで思いながら下駄を脱いでシートの上に座りこむ。

「あ、浴衣着てきたんだ」
「うん。こういう機会しか着れないからさ」
「そっか」

本当は幸村に少しでも女らしい自分を見せたかっただけだよ。なんてとても言えなかった。しばらくくだらないお話をして丸井が腹減ったと騒ぎ出し屋台へと行ってしまった。本当は自分も行きたかったのに立ち上がるのか遅すぎて置いてかれてしまった。ひどい。

「君もお腹が空いたの?」
「う、うん…」

幸村は気づいていたらしくクスクスと笑い出した。恥ずかしながらも答えると幸村の口からはじゃあ、買いに行こうかなんていう予想外の言葉が出てきた。真田と柳に留守番を頼んで私達も屋台へと向かう。あれ、これって。周りから見たらカップルに見えたりするのかな。そうだったらちょっと嬉しいかも。

「人が多いね」
「ほんとだね。こんなに多いとはぐれたら大変だね」
「じゃあ、手繋ごうか」
「えっ」

いい、とも返事をしていないのに幸村は私の手を握った。うわ、さすがにこれは…。

「こうすればはぐれる心配もないだろ?」
「う、うん…」

この人天然なんだかなんだかわからないや。

「あ、私あれ食べたい」
「お好み焼きとかけっこうがっつり行くんだね」
「あはは、お腹空いちゃって」

林檎飴とかかわいいの選んでおけばよかったなんて後悔しながらも、注文をした。隣で幸村が真田たちにも買っていってあげようなんて言って追加で注文をする。やっぱり優しいな。あ、睫長い。本当に整った顔してるな。思わず幸村の横顔に見とれているとばちっと目が合ってしまった。

「俺の顔になんかついてた?」
「ううん!何も!」
「…そう?」

優しく微笑みかける幸村に心臓が爆発しそうなくらいドキドキした。しばらくすると放送が流れ花火がもうすぐ打ち上げられると案内がかかる。今いる場所から真田たちのところまでは少し遠い。その間に始まってしまいそうだ。

「少し見づらいけれどここら辺で見てく?」
「えっ、でも皆が…」
「俺がそうしたいだけ」

そう言われ幸村にぐいっと腕を引っ張られ屋台から少し外れた場所まで連れて行かれるとタイミングよく花火がデカイ音を立て打ちあがった。

「…綺麗…」
「本当だね」

言葉をなくすほどに打ちあがる花火に見とれながら、バレないように幸村を見た。花火の光が当たって目が輝いて見える。ずっとこの人を私は追いかけて来たんだな。

「もうすぐ夏が終わってしまうね」
「うん。あっという間だったよね」
「…君がマネージャーでよかったよ。ありがとう」

思わず幸村の顔を見ると自然と目頭が熱くなって、大きな粒が頬を伝って流れ出した。ううん、お礼を言うのは私の方だよ。ずっと皆の頑張る姿を近くで見れてよかった、素敵な思い出をありがとう。なんて声を震わせながら伝えると幸村はあの時みたく私の頭を優しく撫でた。

「最初から最後まで俺達を支えてくれてありがとう」
「幸村ぁ…私最後悔しかったよ…」
「来年は赤也達に任せよう」

幸村の声も震えていた。いつの間にか花火は終わりのほうまで近づいてきた。2万発もあがるという大きなお祭りだったのに残り50発ですなんて放送が流れた。

「あはは、私達花火も見ないで何言ってるんだろうね」
「本当だね。でも、夏が終わると思うとなんだか切なくて」
「うん、私も」

夏が終わったら私達は引退だ。ああ、もう一度あの夏へ戻りたい。幸村もきっと同じ気持ちでいるはずだ。

花火が終わり、携帯を開くと赤也達からの着信が残っていた。幸村のところにも残っていたらしくお互い自然と笑いがこぼれた。本当は今日自分の気持ちを伝えたかったんだけどな。でも、きっとまた泣いてしまうからやめておこう。自分の気持ち抑える変わりにぎゅっと幸村の手を握ると、ぎゅっと握り返してくれた。

もう少しだけ幸村と一緒にこうしていたい
















20110824 あぴ