何度も言いたい「女子か」





「…どうしよう」



私は今、重大な危機に直面している。



明日は笠松先輩と「映画デート」(友人命名)なのである。

それはいいのだが…。




「服…どうしよう」







先輩の優しさにより、私たちは部活が休みの日に映画に行くことになった。

と、いうことは、私服…ということになる。




やはり「デート」なんだから、おしゃれしていかなければならない。

どうしよう。何を着ていけば…。









プルルルルルル

「ひぃ!?」


突然鳴った携帯電話に肩が跳ねる。


ディスプレイにはなぜか「黄瀬涼太」と表示されていた。







「もしもし?」

「あー名前先輩!今お家っスか?」

「うん、そうだけど…」

「オレ、近くにいるんス。良かったらごはんでも一緒にどうっスかー?」

「え?」

「お願いっスー!笠松先輩たちにフられちゃって寂しいんスよー」


黄瀬くんにこんな風に誘われたのは初めてだ。

びっくりしたけど、まぁ私もごはん作る前だしちょうどいいか。



「うん、いいよ」

「やったー!!!!嬉しいっスー!!!」



黄瀬くんが大喜びしている姿が目に浮かぶ。

とりあえず、急いで行ってあげるか。







「おまたせ」

「名前先輩、お疲れさまっス!」

「今日撮影だったんでしょ?黄瀬くんこそお疲れ」

「部活早退しちゃって物足りないっスよー。明日も休みだし」


変装しているのか私服なのか、帽子をかぶってるデルモな後輩とファミレスに入った。




他愛もない話をしていると、黄瀬くんはいつもの笑顔でところで、と切り出してきた。



「名前先輩、明日は何か予定あるんスか?」

「えっ?」


そういえば、部員たちは明日のこと知ってるんだろうか…。

もし笠松先輩が秘密にしてるなら私も黙っていなきゃ。




にこにこしている黄瀬くんを前に少し思考が停止しかけたが、急いで返事をする。


「よ、予定っていうか、出かける…けど…」

「ふーん、誰と?」

「へ!?」


黄瀬くんは頬杖をつき、こちらを見つめている。


「き、黄瀬くんの知らない人…ですけど」

「えーオレ、聞いちゃいましたよー?もしかしてつきあってるんスか?」

「か!笠松先輩とはそんなんじゃないよ!!」

「やっぱり笠松先輩と、スか」

「げ!?」


にやぁ〜と人の悪い笑みを浮かべている黄瀬くんに、だまされたと気付く。

が、時すでに遅しだった。

やってしまったぁぁぁぁぁぁぁ。

まんまと後輩の誘導尋問にのせられてしまった。



「き、黄瀬くんのばかー」

「あはは!名前先輩はやっぱり素直で可愛いっス!」




「それにしてもなんで分かったの?」

まさか笠松先輩が話したとは思えない。

「あー、それはね」


黄瀬くんによる解説によると…。





「笠松せんぱーい、明日のオフ遊んでください!!」

「無理」

「えぇー!なんでっスか!?ストバス行きましょ!!」

「用事ある」

「オレを差し置いてデートっスかー?許せないっスー」

「な!で、でででーとじゃねぇよ!なに言ってんだ!」

チラリ

「…そうっスか。じゃ、オレは撮影あるんでお先に失礼しまーっす!」



このやりとりの、チラリのときに笠松先輩は私を見ていたらしい。

それでイケメン黄瀬氏は勘付いたんだそうな。こわ!





「でも、球技大会頑張ったごほうびっスかーいいなぁー」

「うん、だから別につきあってるとかそういうのじゃないからね!本当に!」

「分かってるっスよー」

さっきのは冗談スと笑う。



「で、名前先輩は何着てくんスか!?」


きゃぴっ☆という効果音がものすごく似合う表情で尋ねてくる黄瀬くん。

ひょっとして私より乙女なんじゃ…。

こういう会話するのって普通女の子同士じゃない?



「やだなぁ、オレはこれでもモデルっスよー?姉もいるしこういう話大好きっス」


どうやらまた声が漏れていたようで、黄瀬くんはきゃっきゃとはしゃぐ。

で、どうなんスかと盛り上がられているのだが…。




「それが、まだ決まってないんだよねー…」

「は?」



黄瀬くんの表情が固まる。


「だから、さっきまで悩んでて…」

「ちょ、ありえないっス!普通一週間前には決めてるっスよ!?なに前日までのんびりしてるんスか!?」

「そ、そうなの!?」


世の中の女子、すげー!!

いや私がダメなのか!?



「今すぐ考えるっス!名前先輩の家行きましょ!!」

「えぇ!?」


そう言うや否や、黄瀬くんはガバッと立ち上がり、荷物をまとめて店を出た。

そして私の家へ急ぐ。

あ、お会計おごってもらっちゃった。ま、いっか。





「と、いうことで」

「…」

「クローゼット拝見しまーっス!」

「うおおお!?いきなり!?」


黄瀬くんは私の家に来るのは初めてだ。

丁重にもてなそうとお茶を準備したのだが、それに手もつけずにクローゼットへ一目散に向かっていった。

幸いきれいにしていたので問題ないが、女の子のクローゼット漁る男子高校生ってありなの?





「うーん、映画っスよねー」

「…うん」

黄瀬くんは色々な服を出してはベッドに置き、思案する作業を繰り返している。

「あんまりはりきりすぎず、地味すぎず…」

「どーせ笠松先輩だし、おしゃれしたって気付かないんじゃない?」

面倒になってきた私に、黄瀬くんは怒ったような顔で振り返る。

「ダメっス!意外と見てるかもっスよ!それにこっちの気持ちの問題でもあるんス」

「え?」

「おしゃれしてデートした方が楽しいっスよ!せっかくなんだから」

ねっと笑顔で首を傾ける黄瀬くんはやっぱりイケメンだった。

「って、別にデートじゃないから!!」

「はーい」


むきになる私をあしらうかのように、クローゼットに向き合う黄瀬くん。

あ、と声を出した。

「このワンピース可愛いっス!あとこの上着!」

「あ」







『これ、デートにおすすめですよ』








以前、笠松先輩と偶然会った日に買ったワンピース。

店員さんにおすすめだと言われたやつだ。

まだほとんど着ていなかった。

あの時は「デートなんてする相手いねーよケッ」と思ってたけど…。

まさか出番がくるとは…!





「ほら、絶対可愛いっス!これにしましょー!」

黄瀬くんは他の服をクローゼットに戻し、満足そうにしている。

「アクセサリーはこれ、髪型は〜」


なぜか鞄の中から女性誌を取り出し、髪型まで考えていた。


「なんでそんな雑誌持ってるの?」

「インタビューの記事が載ってるから、さっきもらったんスよ。あ、この髪型可愛い」






ご丁寧に雑誌を開いた状態で、黄瀬くんは帰っていった。

確かにワンピース可愛いし、アクセサリーも合っている。

雑誌に載っている髪型も、たぶん合うだろう。



「モデル…すげぇぇぇぇぇ」



正直助かった。

明日は黄瀬プロデュースのスタイルで行ってみよう。

そして時計を見た私は、慌ててお風呂に入って寝た。










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130904


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