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::ホップ、プランス、玉砕

またまた指輪関連記事です。
映画ではブリー村の「躍る小馬亭」の看板がアルファベットで書かれてるのは、という話の続き。
演出上の効果を採ったのはもちろんわかりますし、映画も大好きですが、それはそれ。非難とかではなく、少し考えてみます。



映画1 the Fellowship of the Ringで、ホビット達がブリー村にてガンダルフと落ち合うべくおとずれた宿の看板に記載されてる文字は"the PRancing Pony"と、なぜかRが大文字ながら、完全に現代英字です。

第3紀のエリアドールにアルファベット(ラテン文字)があるかどうか。
それを言うなら英語で喋ってるのも変ですけど。
中つ国はかつての地球の設定ですから、早く世に生まれ過ぎて眠っていた言語や文字体系が、絶対になかったとは言い切れないかもしれませんが、当時もっとも一般に普及していたのはテングワール(フェアノール文字)のはずです。
これはシンダール語やクウェンヤなどエルフ語だけでなく、西方語(共通語)の音を著すのにも使われた表音文字です。


◆テングワール

(画像引用 新版指輪物語 追補編 J・R・R・トールキン著 瀬田貞二・田中明子訳 評論社刊)


では本来そうあるべく、テングワールでは躍る小馬亭はどう書くのでしょうか。

いい資料に、旅の仲間10章「馳夫」の場面で亭主バーリマン・バタバー氏が持ってきたガンダルフの手紙があります。
そしてこの手紙の小道具かグッズか、テングワールで書かれた物があるようです。

◆ガンダルフの手紙


これは小説原文では

"THE PRANCING PONY, BREE.
Midyear's Day, Shire Year, 1418.

Dear Frodo,

Bad news has reached me here. I must go off at once. You had better leave Bag End soon, and get out of the Shire before the end of July at latest.〜〜"

と続くのですが、一番最初に「ブリー村、躍る小馬亭にて ホビット紀元1418年、年の中日」と見えます。

とすると、この最初の部分


これが躍る小馬亭の西方語名でしょうか。

さっそく追補編の表と照らし合わせてみると、最初の文字がもういきなり表にないですが、13の変型です。13はdhの音を表し、軸線を伸ばした13は英語のtheに対応するのだそう。シンダール語の定冠詞は確かiの音でしたが、西方語では英語に近いのでしょうか。
次に2(p)、25(r)で、17(n)の上に母音aを表す点三つのテフタール(記号)。
シンダール語表記だと母音記号は次の字の上にかかるから、ひとつ前の25(r)にaの母音がつきます。次に29(s)に母音iのテフタール。20番は追補編では対応アルファベットは直接に書かれてませんが、17〜20は鼻子音を表し、17がn、18がmに対応、19や20は必要に応じて変化とあります。
とすると
「p,ra,n,si,(n)…」
となる。
あれ、ちょっと待って、これは西方語ではなく普通の英語ですね。英語をテングワールで書いただけの文面ようです。


このような例は結構多くて、指輪物語の本の扉の下段のテングワールも、内容は英語です。上段にあるルーンのような線刻文字(キアス)と合わせると、

"The Lord of the Rings translated from the red book of westmarch by John Ronald Reuel Tolkien.
Herein is set forth the history of the war of the ring and the return of the king as seen by the hobbits."

となります。
追補編文庫版219ページの説明によると、これは「発音的にまあまあ妥当なものを、フェアノール体系を使って書いてみることができるというだけのことである」だそう。


実は西方共通語はエルフ語より謎が多いかもしれません。
指輪物語はトールキンが西境の赤表紙本を翻訳したものという体で、西方語は全て現代英語に訳したとしています。だから訳出前の原語があまり残ってないのです。
ホビット庄やローハンの地名人名などは古英語を参照しているようだし、共通語の生まれたゴンドールではエルフ語の影響で言葉は豊かになっていたといいますから、そういうイメージはイメージなのでしょうけど。

一方クウェンヤやシンダール語の名前はそのままになっているので、例えば金属のミスリルは「灰色に輝くもの」の意味で、ガンダルフのエルフ語名ミスランディアは「灰色の放浪者」で、だからミス=灰色とか解るのですけど。



じゃ、仕方ないからエルフ語で躍る小馬亭はなんというのか考えてみましょう。

Prancingは跳ねることだから「躍る」であって、時々「踊る」小馬亭と表記してる方がありますが、dancingではないので。
これに似たエルフ語はgorやhur(激しさ、生気、活力)でしょうか。かなり苦しいですが。
馬はシンダール語でrochで、ローハン(「馬の土地」が縮まったもの)やロヒアリム(馬の司)のroです。
しかし小馬はわかりません。これも「子」馬とする誤記を見かけますが、ポニーですから子供の馬ではなく、小さな馬です。

ホビットのことをシンダール語ではperian(小さい人)と呼びます。perが「小さい」に該当しそう。
調べるとハーフリングのhalfがperだそうです。littleはサイトの記事がうまく表示されず、よくわかりませんでした♪(へぼ端末事情) たぶん長音記号のついた字なのでしょう。

まあperでいくとして、単純にくっつけるならperroch=小馬。
おおう、前頁でも因縁のchです。
安田訳でいくなら片仮名表記はペロッチ。呪いが発動し、井辻訳でいくならペロッホ。女神転生のアリオク流でいくならペロック。

しかし、黒き剣の呪いはエルフ語では発動しません。子音chの発音について、追補編198ページにちゃんとトールキンの指示があります。
いわく、「ドイツ語あるいはウェールズ語におけるbachで聞かれるchの音を示す。英語のchurchのchのようには発音されない。ゴンドールでは、語の終わりとtの前を除いて、この音はhに弱まる。この変化はRohan,Rohirrimのように、いくつかの固有名詞に見られる」とのこと。

またrはどの場所に置かれても顫動音。イタリア語みたいなんでしょうか。


ではPerrochにgorをくっつけて。
人名フオルの場合hun(心)とこのgorがくっついて縮まってHuorだそう。これに習いPerrohorとはなりませんかね。ペルロホールではまだエルフ語ぽくない。
またはフオルの兄フーリンのHur(uに長音記号)も活力を意味し、これを先につけてHurperroch。シンダール語風に読むならフールペロッホ、フールペルロフ、というところですか?
やっぱりちょっとエルフ語ぽくないです。直訳すると「イキのいい半分馬」で、何言ってるのかわかりませんし。

英語のhop(跳ねる)に対応するシンダール語はlabaのようです。これを頭につけるとLabaperroch。ラバペロッホ、ラーバペルロフあたりになりますか。
ポニーだと言ってるのにラバとはこれいかに。

leap(跳ねる)はcabだそう。
Cabperroch。cは常にkと発音されるので、カブぺルロフ。

ともかく、どれにせよ語の終わりが「ッホ」とか「ロフ」とか、ドイツ語風かロシア語風にならざるを得ない。
それよりラーバぺローフ、あたりに変化するのがまだしもシンダリンぽい響きでしょうか。跳ねる小馬、ラーバぺローフ。
うーむ、追ってもうちょっと勉強していきます。


ちなみにヘラジカの角亭はどうなるか。
ヘラジカelkの対応は見当たりませんが、鹿deerがaras。角は赤角山カラズラスのラスで、ras。
鹿の角だとシンダール語で「アラスラス」
うーむ、なんだかな。勉強します!



あ、本記事題名は鳥肌実さんの、ビレバンで昔売ってたTシャツを思い出して。「ホップ、ステップ、玉砕」とプリントされてたの(笑)

 

2016.10.30 (Sun) 07:33
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