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::【FT旅行記】2.百万人の兄貴 〜多島海と英雄達の故郷

西洋ファンタジーのイメージの源流をあげるなら、ケルト素材、ゲルマン素材、ギリシャ素材、などがまず思い浮かぶでしょうか。
ユダヤ〜キリスト教素材なども多いけど、独自の神話体系を構築するファンタジーは、アニミズムや多神世界などむしろ脱キリストへ向かうものでもあります。
あとはギルガメシュ叙事詩などのオリエント素材などかな。

聖書素材とギリシャ素材からは、アイテムやモンスター名だけはよく使われても、舞台となる世界像はケルトやゲルマン感が強い気がするのは、D&D系や指輪系につらなる英米ファンタジーを主流とみるぶんには当然かもしれません。
あるいは地理より時代の問題で、ギリシャ・ローマの古代だと文明レベル的にしばりが厳しいからかもしれません。
絵面も小札鎧か青銅の胸当て、羽根兜、円盾、投げ槍、とかなるとちょっと大時代な感。なにか筋肉Cしかいなさそうだし。
本気で考証いれて真面目に作るとおもしろいものができると思いますが、マーケット主流からは離れるのでしょう。




そんな中、古代ギリシャを舞台にしたものに、国産CRPG「ヘラクレスの栄光」がありました。忘れられないシリーズです。1とか大変ケッタイなゲームでした(笑)

◆アテネの街

(画像:「闘人魔境伝 ヘラクレスの栄光」より 87年データイースト)
ピンクの建物のアテネ。魚屋にさんま売ってるアテネ。因みにカルタゴの肉屋には豚カツ売ってます。


◆アテネのバー

この感じでテキストが無駄にくどいです(笑)

例えば戦闘敗北時といえば
「○○ は しんでしまった!」
とか
「○○ は ちからつきた…」
くらいが普通と思いますが、ここでは

「おびただしい りゅうけつ!
 ヘラクレスは
 そのばに くずれおちた
 やがて しずかに めを とじて
 えいえんの ねむりに ついた」

くどいというかなんだろうなこれ(笑)
攻撃時も「ゆくぞ!」「どうだ!」「しぶといやつめ!」等の汗臭い掛け声つき。筋肉感は出ていて演出的に正解かもですが(笑)



この1は怪作、3は名作、4は快作との呼び声高い中、2がいまいち際立った評価をなされておらず「DQのぱくり」「フツー」ぐらいに言われる印象ですが、私は好きです。
2発売の1989年はRPGブームで、ソードワールド、スレイヤーズ、フォーチュンクエストらが始まり、FCではウルティマ聖者への道(ブリトン〜アングロサクソン風)、スクウェアのトムソーヤ(19世紀アメリカ風)、神仙伝(中華風)、など様々な個性をもつ作品が出た年でした。

そしてギリシャ風のヘラクレス2では、前作にあったアクの強さや変なテンションが鳴りをひそめ、出来は中々よかったのですが、当たり障りない王道作品になりました。
しかしこのどこかで見たような、突っ張ったところのない普通さは、89年当時あふれていた、日本のRPG界の集合無意識の顕在のようなものにも思えます。


◆アテネの街

(画像:「ヘラクレスの栄光2 タイタンの滅亡」より 89年データイースト)
今回はいくぶん落ち着いた、大理石か砂岩らしい街なみに。


◆フィールド

草の緑が前作より黄色く乾いた色になり、白ちゃけた石灰質の山肌とあいまってエーゲ海周辺らしい趣。


◆戦闘

確かにDQインスパイア系デザイン。それよりこの敵リキシマンに見えます。


パーティーは主人公の少年、ケンタウロス、青銅の女神像、半神の英雄ヘラクレスの4人で、人間は主人公だけ。
少年は魔王を倒すべくヘラクレスに会いに。いじめられっこのケンタウロスは神々に勇気をもらいに。青銅の女神像は鍛冶神ヘパイストスに心をもらいに、それぞれ天界を目指し旅にくわわります。


◆青銅の女神像との出会い



これオズの魔法使いに似てますね。
主人公ドロシーだけ人間で、勇気をなくしたライオンがケンタウロス、心をなくしたブリキ男が青銅の女神像、知恵をなくしたカカシはMP0の脳筋ヘラクレス兄貴。
この青銅の女神像は、攻撃魔法キャラで、ブロンズボディのわりに防御低いムーンブルク系。無機物高火力とは今様ならロボ娘属性でしょか。固くて遅いドーガ系女子でもよかったとか思う。青いし。


全体にこの作品には乾いた風景や音楽の調子、テキストにも上記のような不思議なかわいげと混ざりあう哀感が流れていて魅力です。
個人的にはそういう何かの「感じ」があればいいので、画期的なシステムとか、感動的なストーリーとか、秀麗なビジュアルとかは、あればあるでいいけど、無理には要らないかも。
ヘラクレス3や4も素晴らしいストーリーで大好きなんですが、詩情という意味では2が一番だと思っています。









一方ゲームブックには「アルテウスの復讐」「ミノス王の宮廷」「冒険者の帰還」の三部作があります。
英雄テセウスがミノタウロス退治に失敗したifもので、テセウスの弟アルテウス(オリジナル)が兄の行跡を辿り、その無念を晴らし、やがてアテナイ王となる筋です。

難易度たかい、というか選択肢が藪から棒かつ初見殺しですぐ死にます(笑)
システムの特徴は「名誉点」と「恥辱点」。
名誉は戦いに勝利したり、神々のこころにかなう行為で得られ、これが高いと人を説得できたり、戦闘時に消費して攻撃点をあげたりも。
恥辱点は英雄らしからぬ逃亡や非道によって累積し、これが名誉点を上回ると、ただちに自害するかゼウスの雷に打たれるかして死なねばなりません。げに厳しきは英雄の道かな!


◆ギリシャ世界を巡る旅

(画像:「アルテウスの復讐」より 著J・バターフィールド、P・パーカー、D・ホニグマン 訳喜多元子 刊社会思想社)

トロイゼンを出発したアルテウスは、各地を巡りながらアテネへ向かい、エーゲ海の島々を経てクレタの迷宮を目指します。
獅子門の古都ミケーネ、スラム化したテーベ、賑わうコリント、巡礼の行き交うデルフイ…
途上には強盗あり、海難あり、魔物あり、暗殺あり。試練は英雄の常なのじゃった。


◆寝込みを襲うプロクルステス

テセウス神話とは違い、プロクルステスはティリンスの宿屋の主人になっています。
サイコっぷりは同じで、寝ている客の足をベッドの丈に合わせて斧でちょん切ってきます。そしてこのキメ顔である。


◆アレス兄貴オッスオッス!

マラトンの暴れ牛退治を命じられたアルテウス。
アレスの加護を願うと兄貴が現れ「アルテウス、力を出せ。ウシを殺せ」(原文まま)とターザン並のボキャブラリーで雄臭く励ましてくれます。ここ爆笑した(笑)


バランスきつめですが、出し抜けな試練、気まぐれな神々、不思議な儀式、予言と啓示、強大な魔物など、英雄叙事詩らしい味が出ててたのしいです。
また、例えばTRPGのプレイングなら、扉があればまず聞き耳と罠探知するのが常識ですが、ここで一々そんなことやってたら「英雄が何をそんなにびくびくするのか?」とかいって名誉点けずられます。そうかと思って全オラオラだと即死もします(笑)
でも「冒険」という語が遺跡荒らしと請負仕事を意味し、常にさかしい立ち回りを要求されるスレッカラシなRPG感とは違った、古代の英雄らしい堂々たる「冒険」というのも、またよいものです。









レゲーの話をしだすときりないのでこのへんにして←
この英雄と神々と筋肉の国。ひとからげに古代ギリシャといってますが、べつに近代のような統一国家であったのでなく、ポリスと呼ばれる都市国家が群立してました。これはフライルー地方にどこか似ているかもですね。

そう当てはめてみれば今度のフォートエリルの侵攻は、前5世紀のペルシア戦争のよう。
それまで政治的に独立してばらけていた諸ポリスが、アテナイやスパルタを中心とした連合軍を組み、マラトンの戦いやサラミスの海戦を経て、何倍、何十倍ともいわれたアケメネス朝ペルシアの大軍勢を押し返したのでした。


しかし諸行は無常、ペルシア帝国は退けたものの、この後ギリシャはペロポネソス戦争の内戦期を経て、まずマケドニア、ついでローマ、ついでオスマンに支配されることになります。
元々が大理石やオリーブや葡萄くらいで地産にとぼしく、人口を扶養できないからこその植民地政策で栄えたギリシャが立場逆転したわけですから、因果なものです。

概観すると空しいことのようですが、ゆく河の水は違えど流れが絶えないように、淀みに浮かぶ泡は消えても何度も結ぶように、その時代ごとに、そこに暮らした人びとの気持ちは確かに存在していたのは間違いないことです。
PBCとはいえ戦争という、考えこんでしまう主題ではありますが、戦うにしろ非戦をつらぬくにしろ、要するにそういう、大切にしたいもののことを考える、ということになるのではないかなと思ったりします。

さてさて巡礼もおおづめ、パルマーズトレイル戦が近いですが、ルトナあんまり出れてないからな。
明け方の妙な勢いでこんな長文書いたり、ファミコン起動して写真撮ってるヒマあるんやったら、ロルネタ考えんとのう(笑)
 

2015.04.13 (Mon) 09:04
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