日報 ブログ ::【FT旅行記】1.八月の濡れたブラックサンド 〜港街と盗賊都市 旅行記とか銘うってしまいましたが、飽きてしりすぼむ予感ガモガモですが←、たまに気がむいたらやる不定期コラムのような感じで。まあ最近ロールではてんとくんとして這い回ってるだけで別段ここに書くこともないので(笑)、前頁でベイズ・ボールの画像あげた「盗賊都市」、ちょっとそのへんの話がしたい。 これはイギリスのゲームブック「ファイティング・ファンタジー」シリーズ1983年の第5作、アランシアの悪名高き"盗賊都市"ポート・ブラックサンドの冒険です。 冒険者が平野と丘を越え海辺につくと、ポート・ブラックサンドの市壁と醜く突き出た建物の棟がみえてくるとともに、風の中に腐臭が混じりはじめる。 近づくとはためく黒旗、市壁から吊り下げられた鉄檻の中で飢死を待つ虜囚、棒杭に刺さった骸骨などが見てとれる… 黒甲冑の門衛を賄賂か口八丁か暴力でもってやり込めて市に入ってみると、路地では強盗、目抜きでは暴走馬車、店では詐欺、民家には狂人。 と、実に物騒できったなくてゴッサムなシティなわけですが、一方でなんとも不思議な活気と黒光りする妙な魅力にもまたあふれているのです。 ◆酒場 (画像引用:「盗賊都市」より 著イアン・リビングストン、刊社会思想社) この右ページにあるように、選択肢に沿って指定されたパラグラフへ進みながら冒険するのがゲームブック。 酒場ではこのジャバザハットみたいな店主に話しかけると「余所者には飲ません、失せろ」といきなり短剣ぬく始末。怖い。でもじゃあ会員制って書いとけば一々凄む必要なくない?(笑) 喧嘩するならトロールの用心棒が出てきて、客たちがはやしたて始めます。いろいろ自由。 ◆広場 広場ではびっしり並んだ物売りの屋台や辻楽士達のとなりで、さらし台を囲む群衆が罪人に腐ったトマトや卵を嬉々として投げつけています。 「あんたも投げな」といって卵をくれる老婆にしたがってリンチに加わると、投げてるスキに老婆に金貨をスられる(笑)。 また、広場の一隅には「道」のザンパノみたいな半裸マッチョの大道芸人が砲丸キャッチボールの興業をしていて、落とした方が金貨5枚払うという勝負ができたりもします。 ◆港通り 港通りには略奪品を荷揚げにきた海賊達。商船に偽装とかする気もなく、しゃあしゃあ堂々と海賊旗がはためいてます。そんでこの右下の、カメラ目線で浮かれてる馬鹿はなんなん(笑) 全体にこういう、どこか憎めない感があるんですな。 これらの他にも、たくさんの店や通りは悪漢であふれ、それは人間ばかりでない、ドワーフやゴブリンやトロールが普通に歩いていて、スタートレックばりの多民族感に彩られています。 プレイヤーは次々現れる彼らをうまく出し抜いたり、時に手酷い目に会わされたりしながら街を探索していくのですが、冒険や探索というより、次はどんな魅力的な場面に出くわすのか、ほとんど観光といっていい感覚を覚えるものです。 ところでRPGの源流として、指輪物語と並んで重要な影響のあった、コナンや二剣士などのヒロイック・ファンタジー。 これらは元来ピカレスク小説の要素を含んでいて、物騒な犯罪都市もよく出てきます。 有名なのは、やはりファファード&グレイ・マウザーにおけるネーウォンの魔都ランクマーでしょう。ここに出てくる盗賊結社がD&D系における盗賊ギルドのモデルとも言われます。また機会あればここで個別にとりあげてみたいね。 このランクマーは内海に流れ込むフラル川の河口に位置する港街です。 ブラックサンドも同じくナマズ川の河口に位置する港街で、立地がよく似ている。 現実の類例としてはテムズ川の注ぐ港街、英国のロンドンなど。 16世紀末エリザベス時代から急に発展したサザーク地区などが昔は非常に治安のよくない盗賊都市となっていたらしい資料を目にすることが時々あります。ロンドン橋を渡ったテムズ南岸の、エリザベス当時シェイクスピアの活躍したグローブ座などがあったとこですね。 この頃のサウスバンクは治外法権的な自由区で、犯罪者が逃げてきたり、劇場や売春宿や立ち並び、河岸では船荷を狙う泥棒が多かったとか。 これはペティットにもどこか似ています。自治都市のようですし、港街ですし川ありますし裏通りは治安悪いですし。 流れ者も多いことから、港通りには荷役人夫や渡り鳥水夫が集まる寄せ場もあるんじゃないでしょうか。 そしたらやはり労務者向けの酒場と宿ができますから、ドヤ街もあるかもですね。 イメージ的には昭和マドロスものとか、マーロン・ブランドの「波止場」とか。 あの「波止場」でもでしたけど、理由は色々ながらそうした世界は大体ギャングが仕切ることになったり。山口組も元は神戸港の沖仲仕の仕切り、いわば港湾労働者ギルドだったそう。ペティットのいわゆる「裏通り」にはこうした区画も含まれているのかもしれませんね。 ちなみに寄せ場とは、日雇い労働者と手配師が集まる場所。ドヤとは彼らの使う宿。それが軒を連ねるのがドヤ街です。 しばしばスラムと同義語のように用いられますし、ネガティブなイメージがあって触りにくいものなのは解ります。しかし無造作に語るものではないながら、腫れ物扱いもおかしなことです。 それに、そこにはじゃりんこチエ的な一種の懐かしさや親密さもある訳です。 あの舞台は大阪の西成釜ヶ崎という寄せ場周辺ですが、私近いしたまに寄ってホルモン食ってます。もちろん興味本意で遊山に来てきゃあきゃあ言う場所ではないけど、別に普通にしてれば普通ですし、虚礼のないざっかけなさの中で飲めるのも、私ら雑な男には気楽でいいものです(笑) またアウトローやボヘミアンが集うということなら、新宿ゴールデン街とか、グリニッジビレッジとか、ヘイトアシュベリーとか、洗濯舟やトキワ荘や吉田寮なんかのような、貧乏芸術家や若い学徒の牙城のような街像もあるかもです。 ポート・ブラックサンドにも善なる魔術師ニコデマスが隠棲していたように、リアルの哲学者エリック・ホッファーが波止場の人足として働き続けたように、裏通りや盗賊都市にはそうした、陰惨な暴力や恐怖だけではない、どこかに不思議な魅力や自由や真実があって、彼らを惹き付けるものなのかもしれません。 サン=テグジュペリ星の王子様にいわく「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているから」だそう。ちょっとラピュタED歌詞みたいね。 ならばポート・ブラックサンドが不思議な魅力に輝くのも、きっとそこに暮らす人々の心が確かに息づいているからなのでしょう。 back ×
|