※現パロ


「手、繋いでも良いですか?」

浴衣の袖の裾を弱々しく掴みながら問うたのなら、ジークフリートさんの大きな掌が、わたしの手を優しく包み込んだ。何度も触れたことがある筈なのに、武骨な指が絡み合うと勝手に頬が熱くなるし、頭は浮かれたように薄ぼんやりと靄が掛かる。
おとこのひとの手だ。お父さんとも、弟とも、大学の同級生とも、アルバイト先の先輩とも違う、わたしの好きなひとの手だった。

「少し見ない間に随分と淑やかになったものだ」
「……いつの話をしてるんです?」
「まだ俺の腰くらいの身長の頃は、所構わず飛び付いてくるじゃじゃ馬だっただろう」
「えっ、も……っ、もう! そんな昔のこと早く忘れてください!」
「忘れないさ」

カランコロンと鳴り響いていた下駄の音が止まった。静まり返った砂利道の片隅に遠くから祭囃子と花火の音、木々の間から虫の鳴き声を聞く。繋がれていた手が解かれ、ジークフリートさんを見上げると、目尻に微かな皺を作りながら微笑んでいた。伸ばされた掌が、結われた髪を崩さないように優しく撫でる。

「毎年、おまえの成長を見守るのが俺の楽しみだからな」
「……わたし、綺麗になりました?」
「ああ。母親に似た、飛び切りの美人だ」
「本当に? ジークフリートさんを誘惑できるくらい?」
「……嫁入り前の娘がそういうことを言うものじゃないぞ」

思わず手を止めたジークフリートさんの目が、夜目に分かるくらい泳いでいる。わたしがいわゆる「じゃじゃ馬」だった頃の戯言を忘れずに覚えていてくれたらしい。大人になったらジークフリートさんのお嫁さんになる――という口約束を律儀に、疑いひとつ持たずに。親戚一同に笑い飛ばされた子どもの告白を本気にしたのは、当の本人とジークフリートさんだけだった。
わたしは二十歳になった。大人になった。だから。

「もう何も知らない小娘じゃないですよ」
「…………そういうところも、母親にそっくりだな」

ほんの少しだけ嬉しそうな溜め息を吐き出しながら、ジークフリートさんの大きな掌が、わたしの手をさらうように包み込んだ。わたしを連れ去ってくれる、おとこのひとの手だった。

真しやかに花を愛づ
17'0910

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