「……重てえ」

襲い来る負荷に呻きながら、二宮が膨れ上がった腹の上の毛布を捲ると、気持ち良さそうに眠る女が居た。女――もとい、恋人のナマエは腹筋を枕に、下半身を足と足の間に投げ出す形で二宮の上に横たわっている。
重圧感と手足の寒気に目を覚ましたのなら、案の定。ナマエが毛布を剥ぎ取った挙句、文字通り二宮の上に乗った状態のまま寝入ったらしい。曝された生身の手足はしっかりと鳥肌が立っていた。この女……、と額に青筋が浮かんだのは言うまでもないが、すやすやと眠る恋人を叩き起こす程、二宮は鬼じゃない。
毎晩とは言わないが、毎度のパターンだった。先に就寝する二宮を追い掛けるように、ナマエがベッドの中に潜り込むのは。防衛任務のシフトに左右されることはあるが、ナマエが二宮より先に寝ることは滅多にない。
突然、背中からぞわぞわと違和感に襲われ、二宮は思わず息を止めた。腹の上に鎮座する丸い頭部を見下ろしてしまったのは最早、条件反射なのだと思う。ツツツ、と背中に回された指先が肌の上を滑って、なぞって、踊っていて。
数秒の沈黙の後、ナマエの手首を引っ掴んで持ち上げ、二宮はハアと溜め息を零した。

「……起きてるだろ」
「あは」

楽しんでいる様子のナマエは二宮の制止を無視し、指先を止めないばかりじゃ飽き足らず、スウェットの生地越しに頬を擦り寄せてくるものだから、堪ったものじゃない。頭の大半を占めていた筈の眠気は遥か彼方へ飛んでしまった。
朝っぱらから煽るな馬鹿、と吐き捨てた後に二宮がさっさとベッドを抜け出すと、ナマエは至極不服そうだった。

「もう起きるの。今日のシフト夜からでしょ?」
「早朝に変更になった。おまえは寝てろ」
「……ごはん作るよ?」
「いいから寝てろ」

有無を言わさず聞く耳すら持たない尊大な態度の二宮に、最終的に転がっていたクッションを投げつけられ、ナマエは諦めたように再びベッドへ潜り込んだ。思いのほか、聞き分けの良いナマエの様子に若干後悔しそうになるが、口にすれば調子に乗るだろうことは容易に想像できたものだから、舌打ちするに留めて置いた。
匡貴、とナマエに呼び止められ、二宮は部屋を振り返った。白いシーツの上に散った黒髪の隙間から、今に落ちてしまいそうな瞼の奥から、瞳が微笑み掛けてくる。

「いってらっしゃい」
「……おやすみ」

A pink rabbit falls into the dream.
18'1101

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