「……お煎餅?」
「依頼主の老婆に貰った。おまえにやる」

ドンと容量いっぱいに煎餅が詰まった茶色い紙袋を押しつけられて、反射的にそれを受け取ってしまったナマエはパチパチと瞬いた。
団長であるグランに連れられて、カシウスがグランサイファーを出たのは数時間ほど前だった。往路の手荷物は武器ひとつだけだった筈なのに、任務を終えて帰路についた全員がそれぞれ大きな紙袋を持っていたものだから、出迎えたときは驚いたものだ。
ユーステスと他愛のない会話をしながら通路を突き進んでいると、擦れ違い様に呼び止められて、大量の煎餅を押し付けられて。至極真顔でプレゼントだと言うカシウスがおもしろ可笑しくて。小さく笑いながら、ナマエは茶色い紙袋をカシウスに突き返す。

「カシウスが貰ったものなんだから、カシウスが食べなさいよ。お煎餅、食べたことないでしょ?」
「確かに一理ある。俺が貰ったものならば、本来は俺が処理するべきだ。だが、俺がおまえにお煎餅とやらをやるのは……、まあ、親切シンだ」
「なによそれ」

紙袋を一向に受け取ろうとせず、あまつさえカシウスはベアトリクスから受け売りの親切心を主張する。ナマエは少々悩む素振りを見せた後に、名案を思いついたとばかりに手を合わせた。

「じゃあ一緒にお茶しましょう? わたしとカシウスだけじゃ全部は食べられないからゼタやベアトリクス、ユーステスも一緒に」
「待て。なんで俺が」
「……駄目?」

思わぬ飛び火に無言を貫いていたユーステスが反論するが、ナマエの期待が満ち溢れた視線に押し黙る。「せっかくだから……。ね?」と首を傾げながら勧められたのは最早、完全なる駄目押しだった。
沈黙の後、ユーステスは心のうちに溜め息を吐き出し了承する。

「…………いただこう」
「決まりね! さっそく緑茶の用意をしなきゃ」

キッチンの方向へ歩き出すナマエの背を見送っていると、ふと視線を感じた。相変わらず、感情が読めない表情のカシウスがユーステスをジッと見つめている。やっと視線を外したと思えば、今度はナマエの後姿を眺めた後、再びユーステスに視線が戻ってくる。
ふむ、と納得されたように頷かれ、居心地が悪い。頭が痛くなるのを感じながら、ユーステスはカシウスを睨みつけた。

「なんだ旅行者」
「存外、好意を持つ者には甘いと思っただけだ」
「……不合理極まりないのはどっちだ」

花盗人
19'0120

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