バチ。目が合ったのは気のせいなんかじゃない。
スポーツグラスの奥、瞳が微かに見開かれて、私も彼と同じ表情をしているのだろうと思った。お互いに無意識だった。球場へ来る度に条件反射で姿を探して、青道のユニフォームを目で追って、自分自身の制服とは裏腹に心の中で彼の勝利を願ってしまうのだ。
突然、肩を抱くように回された手に驚いて、横を見ると至近距離に真田の顔があった。とにかく近い。離れて欲しい。力いっぱい手の甲をつねると思いのほか早々に解放されて、再び前を向いた頃には、彼の背中を眺めることしか出来なかった。

「ねえ」
「ん?」
「一也の前でこういうことするのやめて」

今回だけじゃない。真田は度々、こういうことをする。私が一也と会話したりメールしたりすると、必ずと言って良いくらい邪魔をする。
肯定・否定どちらでもない間延びした返事をした後に、ニイと歯を見せながら笑った。

「成宮ならいいんだ?」
「……なんで鳴が出てくるの」
「ミョウジと仲良い男っつったらその二人じゃん。どっちが本命?」
「…………」
「まあどっちが相手でも関係ねえか」

「激アツ」と好戦的な顔をする真田に、分かってるくせにと言ってしまいそうになる。定期的に掛かってくる鳴からの電話は「すげえな成宮。声でけえから会話丸聞こえ」と言いながらケラケラ笑っていたのに、一也と電話しようものなら備品がないだの監督が呼んでいるだの早々に切らせようとするのだ。目の敵が一也なのは一目瞭然だった。
思い出したら段々むかついてくる。けれどそれは、分かりやすいのが悪い。ハッキリしないのが悪い。告白する勇気すらない私は、真田に不平不満のひとつも言えやしない。
ジト。睨むようにチームメイトの顔を見る。私を見つめて笑っている真田に胸が高鳴ったのは、距離が近いからだ。慣れないからだ。他の理由なんて絶対に有り得ない。

「俺のことも見てよ、ミョウジ」
「……マウンドにいるときはちゃんと見てるよ」

伸ばされた手は、今度は目を塞ぐように深々とキャップを被せた。

ゆるしゆるされ果ての国
20'0620

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