「ミョウジ、新作の菓子やるよ」
「チョコは? これ好きだったよな?」
「ミョウジ先輩、肩凝ってません? 俺マッサージ上手いっすよ」
「前に読みたいって言ってた漫画買ったんで、貸しましょうか?」
「マネージャー!」
「ミョウジ先輩!」
「…………急に何?」

放課後・部活開始の十分ほど前。部室棟の用具室からグラウンドへ荷物を運んでいると、あっという間にチームメイトたちに囲まれた。
手元の硬球が入ったカゴと肩に背負ったクーラーボックスを引っ手繰られて、頼んでもいないスポーツドリンクを押しつけられたかと思えば、菓子だの漫画だのを片手に突然のアピール合戦が始まったものだから、困惑や動揺を通り越して恐怖すら感じる。露骨にちやほやと甘やかしてくる様子の彼らに、ぞぞぞと鳥肌が立った。

「テストは先週だったし、誕生日は再来月だし……。一体何なの、気持ち悪いよ」
「この時期にアピールするなんざ決まってんだろ!」
「薬師高校文化祭・伝統のフォークダンス!」

ふと今日の日付を思い出すと、文化祭が二週間後に迫っていた。活動が盛んな野球部は部活最優先という免罪符を得て、放課後もクラスの出し物の準備に顔を出さず部活にくる生徒が多いので、いつもとほとんど変わらない部活風景だ。とはいえ、ある程度は参加しないとクラスメイトから白い目で見られることになるため、交代で程々の使いっ走りになっているのが実情である。
準備期間はともかく、後夜祭のキャンプファイヤーとフォークダンスは全校参加の伝統行事だ。いくら部活動の練習に励もうが、文化祭の参加に消極的だろうが、そんなものは関係ない。しかも薬師高校のフォークダンスはオクラホマミキサーと決まっているので、生徒たちは任意のペアを組む必要があった。
呆れ半分・憐み半分の視線を向けたのなら、いつもは大きいチームメイトたちの体が小さく縮こまっているように見えた。

「……つまり彼女がいなくて女子を誘う勇気もないから部活のマネに頼んで事なきを得ようってこと?」
「そうだよ! 悪いか!」
「お前だけが頼りなんだよ、ミョウジ!」

唾が飛んできそうな勢いで力説されて、被害を被る前にさっと後退る。そういうところが女子受けしないんじゃないの、と思ったものの言ったところで火に油を注ぐことになるのは目に見えているものだから、心のうちに留めて置いた。
確かに、付き合っている彼女がいる部員に加えて目星がついているらしい数名は、高みの見物と言わんばかりに遠くからこちらを窺っている。見守るような生暖かい目も、期待に満ちたまなざしも、何もかもが腹立たしい。ただでさえ部活中も世話を焼いているのに、学校生活の面倒まで見るなんて冗談じゃない。
それらを一蹴するように鼻で笑いながら、べえと舌を出して言い放つ。

「悪いけど、私もう相手決まってるから」

固まってしまった彼らを置き去りにしたまま、さっさとグラウンドに向かって歩いていく。背後から盛大なブーイングが飛んできたが、そんな些細で些末なことは知ったことじゃなかった。





「そんなつもり全然なかったくせに、触発されて躍起になって部活のマネを漫画や菓子で釣ろうなんて、考えが甘すぎると思わない?」
「…………」
「……話聞いてる?」

部活後・歩き慣れた帰路の途中。返事がなかったので顔を覗き込むと、どことなく元気のない表情で力なく笑い返された。真田がこれほど露骨な態度をとるのは珍しい。普段はポジティブが服を着て歩いているような性格の男のくせに、煮え切らない態度をされるとこちらの調子が狂いそうになる。
心なしかいつもよりも開いているお互いの距離を縮めるように、ずいと詰め寄った。

「どうしたの? 何かあった?」
「……俺さ、ミョウジと仲良い方だと思ってたんだ」
「?」
「だから俺の知らないところで抜け駆けされてんのもショックだし、先約の話も部活の連中から又聞きで知ったからすげえ落ち込んでる」

しゃがみ込んで溜め息を吐き出した後に、そんなことを言うものだから。随分と小さくなってしまった真田を愉しんでから「なんだそんなこと?」とあっけらかんと言ってみせると、きょとんとした間の抜けた顔が上を向く。
――見守るような生暖かい目も、期待に満ちたまなざしも、何一つ分かっていない様子も、本当に腹立たしくて仕方がなかった。

「……真田が私のこと誘ってくれると思ったから空けといたのに」
「…………え」
「ねえ」

視線を合わせるように一緒にしゃがみ込んで、握った拳で左胸をこつんと殴ってみるが、鍛えられた体幹はふらつきすらしない。胸の奥から伝わってくる鼓動が同じくらい早くて、同じくらい煩くて。緩みそうになった口元をきゅっと真横に引き結んでから、口端をにやりとつり上げる。
本音を言えば真田から誘って欲しかったが、いらない見栄を張ったのは私だ。変な勘違いをさせて落ち込ませたのも、他の誰でもない私なのだから自業自得だ。本当に鈍感なのはどっちだ、と思いながら、私は私のシャルウィダンスで誘ってやった。

「真田は私と踊ってくれないの?」
「〜〜っ、そりゃ踊るけど、さ……、俺マジでカッコ悪すぎじゃね?」
「いつもそんな感じでしょ」
「えっうそ」

いつまでも続く音楽で踊って
21'0226

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