仕事終わり、待ち合わせて夕暮れの道を2人で歩いた。互いの腕には特売品の入った買い物袋が一つずつ。
風は随分冷たくて、空腹も手伝ってか足取りは少し早い。
「やっぱり冬は鍋ですよね」
「そうだな」
昨日、夕食終わりに観たテレビで冬の風物詩とも云える鍋の特集をやっていて、特に話し合うでも無く今日のメニューは決まった。冷蔵庫の整理も兼ねてだ。
半端に余ってしまった野菜を処理してしまうにはちょうど適任でもある。
「仗助、そういえば上着をクリーニングに出してなかったか?」
「あ、そういえば」
「取りに行くか」
「んー戻るの面倒だしなぁ」
「なら明日、俺が帰り際にでも引き取っておいてやる」
「やった。お願いしまーす」
道を引き返すのは些か面倒で悩んでいれば、緩く笑いながら背を叩かれた。同じ様な笑顔で仗助も返事をする。
こうして何気なく2人で過ごす明日を言い合える様になったのは何時からだろう。己は兎も角、承太郎は先のことを口にしたがらなかった。それこそ、ほんの些細な事さえも。
「そうだ、今週末洗車にいきません?新しいガソスタが出来て、セルフコーナーがかなり良いって」
「この寒いのにか」
「だぁって汚れ酷いっすよ」
「まぁ確かにな」
「天気も良いらしいですし」
「そうだな…たまには洗ってやるか」
「じゃあ決定!」
それでも仗助は必要だからと理由をつけては、予定を決めていった。リビングに掛けているカレンダーに沢山の文字を書き込んで、寝る前と朝、承太郎に必ず伝えた。
そして一緒に暮らし始めて数年経った今でも、それは変わっていない。
見れば分かると承太郎は云うけれど、重要なのは予定なんかではなく、2人で隣り合う未来をイメージすることで。賢い筈の承太郎が、苦手とする物。
「やっと着いた!承太郎さん、鍵!」
「お前のは?」
「出すのが面倒くさい」
「…たくっ」
呆れたように文句を云いながらも、承太郎がキーケースを取り出し鍵を開ける。かちゃん、と聞き慣れた音と共に扉は開き、風が無いだけで随分と暖かく感じられる室内に転がり込んだ。
「あー寒かった!」
ふうっと息をつく仗助の後ろで、承太郎が肩を竦めながら扉を閉める。
共に並んで靴を脱ぎ、中に入ろうとした所でふと仗助が動きを止めた。そのまま、隣にいる相手の顔を見上げる。
忘れ物でもしたのか、と口を開き掛けた刹那、己よりも幾らか幼く整った顔立ちに広がったのは満面の笑顔。
「お帰りなさい、承太郎さん」
極々、当たり前のように優しい声で。もう、何度も聞いたその言葉を。
少しだけ承太郎は目を瞬かせるも、すぐにただいま、と答えた。もう、何度も告げたその言葉を愛しい相手に向けて、そっと目を細める。すっかり体内に染み込んでしまっている愛情は、とても心地が良い。
「じゃ、先に鍋の支度しましょうか」
「ああ」
どちらからともなく、ぎゅっと手を繋いでキッチンへと向かう。気恥ずかしさは有るけれど、お互いに離すことはしない。
触れた箇所は段々と暖かくなり、ビニール袋が同時にがさりと音を立てた。