例えば今、俺が承太郎さんに「一番大切な物は何ですか」と聞いたなら何と答えるんだろう。娘かそれとも仕事か、どちらの可能性もある。

 そしてヒトデやらイルカやらバイクやらも挙げて、6番目位に思い出したように俺の名を挙げてくれる…かもしれない。忘れていた、すまん。なんて真顔で。それがあの人のスタンスだ。



 自慢じゃねぇが、承太郎さんの中でどれ程の存在を俺が占めているかはある程度予想がつく。
 どうしたって勝てない人間は一人だけ居るけれど、それをカウントしなければぶっちぎりの首位独走な自信は有る訳で。彼の愛を理解出来るのなんて絶対に俺しか居ないし、理解した上で同じ程に愛せるのも俺だけだ。



 それ程迄に、空条承太郎という人間は歪んでいる。



 まず、彼は愛すれば愛するだけその人や物から離れようとする。自分の周りに居れば何時スタンドの危害が及ぶか判らないとの信念で。だが、そんなの普通理解出来ない。当たり前だ。好きなら側に居たいと思うのが一般の感覚なのだから。



 加えて承太郎さんは逐一言葉が足りない。俺はもう慣れたけれど、自分の心情という物を全然口にしない。
 彼に取って言葉と云うのは飾りやオプションみたいなモンで、無ければ無いで困りもしないのだろう。
 おまけにあの人の脳内は馬鹿みたいに優秀だから、全てを見通していて長ったらしい言葉など必要ともしていない。



 俺と対話している時だって、何故判らないのだと困惑した表情を浮かべる事がある。まぁ最近は大分少なくなったが。



 数学だって問題と課程と解があって成り立つのに、問題を書いてる途中に何行もある過程をすっ飛ばして、さっさと答えを書いちまうような人なんだ、承太郎さんは。賢すぎるのがあの人の欠点だ。


 そして、彼は余りにも隙が無さすぎる。何時だって「空条承太郎」として生きている。強くて物静かで賢くて美しい「空条承太郎」として。
 だから一緒に居ると酷く疲弊してしまうのだ。空条承太郎に釣り合う人間であろうとすればする程、己のアイデンティティが破壊されて行く。
 自己を失い、ただ愛するだけのような状態で(実際は決してそんなことはないのだが)一体どうやって関係を保てると云うのか。そんな物不可能だ。


…俺以外には。


 これでも昔は苦労した。承太郎さんの内部に入り込む迄は。
 だが、本当に少しずつだけど歩み寄って来る彼を見ているのは、決して悪い気分じゃなくて。
 そして何年も掛かり、やっと手に入れた。腐る程の愛を与え、優しさで彼を包み込み、ほんの少しだけ苦味を混ぜて、漸く。
 好きな物を聞いても「下らない」と一蹴される事もなく、6番目程度に入り込むことが出来るようになった訳だ。特別でも何でもなく、当たり前みたいに。

 それがどれ程の事なのか、承太郎さんでさえ理解もしてないんだろう。何もかも見透かした彼が、唯一盲目になる部分に俺が居る。何という、甘美な。


「仗助、帰ってたのか」



 不意に背後から声が掛けられ、俺は驚いたと抗議しつつ腰を浮かせた。海に長く居たのか、コートからは潮の香りがする。確かめるべく身体を抱いてみると、矢張り冷たい。



「お帰りなさい。…こんなに冷えて…風邪引きますよ」
「すまん」
「お風呂入りましょうか。飯は出前でも良いでしょう?」
「…ああ」
「じゃあ決定。風呂から上がったら寿司でも頼みましょうね」



 頷いた承太郎さんの頬にキスをして、手を引きながら2人で風呂場へと向かう。
 脱衣所でコートと帽子を受け取り所定の位置に置くと、バスタオルを引っ張り出した。洗い立てだからか、ふわりと柔らかくて触り心地が良い。
 服を脱いだ承太郎さんの肌をタオルで覆うと一瞬綺麗な目を丸くしたが、すぐに柔らかく細められた。



「気持ち良いな」
「でしょう。柔軟剤高いのにしたんです」
「そうか」
「柔らかくて優しくて俺みたいじゃないっすか?」
「…よく云う」
「へへっ」



 和やかな会話をしながらタオルを掛け、先に浴室へと入る承太郎さんの後に続く。身体を洗うべくシャワーノズルに手を伸ばした彼を抱き締めて、耳元で静かに囁いた。



「俺はずっと愛してますからね。六番目でも」



 包み込むように、そっと。
 優しさで、彼を満たしていくのだ。



包み込む優しさで


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