どうしてこの人は誰かを愛したのだろう。愛して結婚して子供を授かって、そして離れていったのだろう。
結婚式、というものもやったらしい。神の前で確かに永遠を誓ったのだ。
それなのに、守るためだとか巻き込みたく無いだとか自分の理屈を盾にして、あっさりと離れていった。己の感情を丸で爪でも切るようにすっぱりと。


嫌いになったのなら判る。仕事で時間が取れなくて擦れ違いが続いたなんて、芸能人の離婚の常套句じゃないか。
なのに、相手に理由も告げず勝手に居なくなるのは残酷すぎるだろう。自分だけで背負い込むのは愛の証明にはならない。



「俺には守り切れなかったんだ」

「…ふぅん」


大きな身体を抱き締めたまま、指先で背中を辿りながら耳障りの良い声を訊く。
自分よりも逞しいこの身体が微かに震えて…いるわけではないが。


そもそも、守るとは何だ。
自宅に居たらそこを奇襲されるかもしれないから、物理的な距離を取っていたと云うのか。
そんなこと、はなから分かって居たことだろう。聡明なこの人が、訪れる結果を予期出来なかったとも思えない。
或いは、その危惧すら凌駕する程に愛していたとでも?
それは有り得ない。だって、承太郎さんだから。彼は、決して理性より感情を先行させない。


だからこそ、切り捨てた。


いっそ最初から誰も愛さなければ良かったのに。
それとも、戦うことに疲弊して僅かな安らぎを求めたのだろうか。更に傷付く事を知って居ながら。
だとしたら余りにも滑稽だ。
滑稽で愚かで、酷く愛しい。


この人が望んだ物は俺ならば与えられる。それどころか望む以上に注いでやれる。
結婚式は出来ないけれど、給料3カ月分の指輪程度なら。
不器用な愛の証明も、彼が言葉にしない感情も、自分本意なワガママの仮面も全て、俺ならば受け止める。



「仗助君は強いですから。あんたのこと、分かってますよ」



肉体的にも精神的にも。全て。そう全ての不安要素を取り払って俺で埋め尽くして、息をする度に俺を思うほどに。
そんなのはただの傲りだと云うのなら、試させてあげるから。
夜中、子供に絵本を聞かせるように何度も繰り返し優しい声で欲しい言葉をあげる。だからあんたは




安心していいよ

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