昼から降り続いた雨は、夕方になっても途切れる事は無かった。ほんの数センチだけ開いた遮光カーテンの隙間から見える空は何処までも灰色で薄暗い。
ベッドサイドの煙草へと承太郎の手が伸びる。あれだけの戦いに身を置きながら、殆ど傷の無い腕。何時だったか作り物のようだと仗助が笑った。


「ねぇ承太郎さん。愛の正反対って知ってる?」
「何だ、藪から棒に」
「知ってるかなって思って」
「…無関心、だったか。マザーテレサの言葉だろう」
「何だ。知ってるんだ。流石承太郎さん」
「一般教養だろ」
「じゃあさ、何であんたは俺とセックスするんだよ?」
「…悪いが質問の意図が分からない。脈絡が無さすぎる」
「嘘。頭良いくせに」
「これは本当だ。本当に分からない」
「他は嘘なんだ?」
「さぁな」


肯定も否定もせぬ侭、厚めの唇からゆっくりと煙を吐き出す。そろそろ受け皿の容積が限界に近い。捨てに行かなければならないが、ベッドから出るのが億劫だ。


「何故、そんな事を聞く」
「だっておかしいだろ。あんたは俺を愛してもいないのにセックスする。無関心な奴に抱かれるのは普通じゃない」


とんっ。
何とか隙間を見つけて灰を押し込み、口に戻そうとした時に横から奪われた。取り返そうとするが、止める。このまま吸い殻のタワーを押し付けてやればいい。



「別に良いだろ。どうせ俺らは何一つ普通じゃないんだ」
「俺ら、ね。俺まで巻き込むなんて酷いっすよ」
「親戚で妻子持ちの男に突っ込む奴が何を云う」
「受け入れるあんたも相当だ」
「……やれやれ、お互い様か」
「そうっすね」
「愛されたいのか?」
「愛してくれるんっすか?」
「その灰皿を綺麗にしたら考えてやる」
「それはパシりって云うんですよ、承太郎さん」
「じゃあついでに焼きそばパンでも買ってこい」
「どんだけ安い愛なんっすか」


くすくすっと笑って、器用にタバコを揉み消した。タワーは絶妙なバランスで崩れない。ちっと承太郎が軽く舌打ちをする。


「何怒ってるんです?」
「滅茶苦茶になれば、諦めて掃除する気にもなったかと思ってな。お前がひっくり返すのを祈ってたんだが」
「そんな事云っちゃって。本当はベッドから出たくないんでしょう。まだ足りない?」
「……若さ故の自信過剰だな」
「厳しいっすねぇあんたは」


そっとベッドの中を移動して、承太郎の上に覆い被さった。その無表情は仮面のようだとも思う。
何もかもが作られた、嘘だらけの男。触れ合った肌でさえ僅かに冷たい。外の雨にでも降られてきたのか。



「ホント愛がないよな、あんたは」



無関心の方がまだ可愛げがあると思わず仗助がぼやいた。


無関心

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