規則的な呼吸を繰り返す身体を後ろから抱き締めてみる。丁度鼻先の当たるところに深い切り傷があって、少しざらざらとしていた。
いや、ここだけじゃなくて、肩甲骨の下や脇腹、足にも。
俺とは違って普通の人間である雪男の傷はきっと一生消えないんだろう。それらが何時どうやって出来たのかすら、俺は知らない。
そもそもどうして俺らは二つに分かれてしまった?元々は一つだった筈なのに。悪魔の力と人間の魂の共存は出来なかったんだろうか。
もう一度一つに戻りたくて肌を重ねて愛の言葉を紡いで、でも。
雪男の小さな傷一つ、俺は意味を知らない。
「雪男」
寝息は乱れない。呟きで空気がほんの少し震えるだけ。
こんなにも大事なのに、的確に伝える方法が判らない。第一、どうしたって結局こいつはまた。
「一人で、行くなよ」
(守りたいんだよ。と血を吐き捨てながら彼は笑う)