2013/01/09 16:42

きっと、承太郎さんに見えている世界は俺なんかが見ている物より数段に美しく鮮明なのだ。だからこそ、彼は雄大な海へ足を運ぶ。残酷な物すらも見通してしまう彼が、唯一の安らぎを得ようと。その背中を抱き締めることしか出来ないけれど、せめてそれがほんの少しの意味を持てばいい。

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月に照らされた水面の上に彼は浮かんでいた。服さえも着たまま、ゆらゆらと。そのままふっと泡にでもなって消えてしまいそうで、俺は目を離せない。…きっと今、彼の世界に俺は居なくて、孤独だけが彼の側にある。救う事も出来ずに、俺は帰って来いと願うだけ。滑稽だと自嘲しながら、そっと泣いた

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止め処なく腕から流れ落ちる赤色に俺は身震いした。雪色の肌は見る間に液体に蝕まれていく。「綺麗、ですね」意識もせず宙に溶けた言葉に彼は露骨に眉を寄せる。「吸血鬼と同じ事を云うな」声が震えて居たのはただの貧血か、或いは。――人も化け物も狂わせる碧玉は、今じっと俺を見ている。

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「いっそ全て終わりにしようか」 筋張った指がゆるりと俺の首を圧迫する。視線の先には見たことも無い程に綺麗な碧玉の瞳。良いですよ、とか細い声を無理矢理紡ぎ出し、同じ様に彼の首を掴んだ。どくり、どくりと脈が伝わる。互いに力を込めながら意識が途切れる寸前、与えられたのは柔らかな唇だった

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分からないフリをする。幼さを盾にして、向けられた拒絶を真っ正面から見据える。そして彼が上辺を取り繕う隙に、飲み込んでしまうのだ。柔らかな笑顔で消化する事にも随分と慣れた。こうして何時か、彼の痛みも優しい曖昧さの中に消えてしまえばいいのに。俺が全て食い尽くしてしまえたなら。




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