2012/06/29 13:06

「おい仗助。キュウリなんて頼んでねぇぞ?」
「あ、それ貰いました。今朝畑で取れたばっかりだからサービスだよって」
「八百屋で?」
「肉屋で」
「そりゃまた…。旨そうだな」形は少し悪いが、色も良く見るからに新鮮そうだ。ポテトサラダにでも入れるかと、テーブルの上に置く。買ったばかりのジャガイモもあるし、ちょうど良い。それにしても。
「物を良く貰うな。お前は」
商店街に行かせると、必ずと云って良い程何かを持ち帰る。林檎だったり菓子だったり様々だが。あの性格だから年長者受けが良いのだろう。
「孫みてぇに思われてるんですかね。そういやぁ、昔2人して同じ饅頭貰って帰ったこともありましたっけ。ちょうどこの時期に」
「あったな」
まだこいつが学生服を着て、俺がホテル住まいをしていた頃、2人で平らげるには少々多い饅頭を貰った。それぞれが、別の人間に同じタイミングで。
あの時は顔を見合わせたものだが。懐かしいと記憶を辿っていると、仗助がそわそわとし始めた。
「あー、食いたくなってきた!渋いお茶と一緒に!」
どうやら感化されたらしい。
「ジジクセェな」
「承太郎さんだって結構気に入ってたじゃないっすかー。甘いモン苦手なのに、あれは食べてた」
「まあな」
上品な黒糖の味を思い出すとつい己の食欲も刺激された。それを見透かしたように仗助が口角を釣り上げ、ソファーから飛び降りるように立ち上がる。
「買ってきます。そこの和菓子屋で」
「今からか?」
「五時までだからまだ開いてますって!」
「車に気をつけろよ」
「ガキじゃねぇっすよ!…ねぇ承太郎さん」
「何だ」
「この街に戻ってくれて有り難うございます」
リビングの扉を出る寸前、ぺこりと仗助は頭を下げた。視界に飛び込む特徴的なリーゼントはあの時から全く変わっていなくて、いつもホテルを出るときに頭を下げていた学ラン姿の仗助と重なる。
「礼を云う事じゃない」
ほんの少しだけ懐かしくて、急に触れたくなって手を伸ばし掛けたが、それよりも早く抱き竦められた。
「仗す、」
「すぐ帰って来ます。お帰りって云ってくださいね」
「…ああ」
髪型を崩さぬように撫でてやると、満面の笑みを残し玄関へと掛けていった。扉が締まる音がして、静寂に包まれる。けれどこの静けさも一時のことだ。
次は一体何を手みやげに戻ってくるのだろうと思いつつ、茶葉を取り出すためキッチンへ立った。
comment (0)



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -