2012/06/27 14:45

結婚式場を併設したホテルの前を通ると、真っ白なウェディングドレスが飾られていた。先月は確か薄紫のふんわりしたやつだったか。
沢山のレースが付いたそれは煌びやかなライトが足元から照らしていて、凄く綺麗だと思った。つい目を奪われた俺に気付いた承太郎さんが「ジューンブライドか」と呟く。
「6月の花嫁は幸せになれるって言い伝えですか」
そう言えば、うちのポストにも近隣の式場のパンフレットが入れられていた気がする。今も今後も必要ないし直ぐに捨てたけれど。
「欧米ではな。日本だと湿気が多いし天候も不安定だから、あまり式には向かないと聞いたが」
「ふぅん」
まぁ云われてみればそうだ。どうせなら5月やら10月の方がカラッとして良いだろう。
「承太郎さんはいつ結婚式を上げたんですか?」
「……6月」
軽い気持ちで聞いたら、少しだけ決まり悪げな返答をされて、あらま。と声が漏れた。
「言い伝え通りにはしてやれなかったがな」
滅多に聞けない僅かな後悔を滲ませる彼に、胸がざわめく。同時にそんな事を思い出させてしまった己の馬鹿さ加減にも呆れた。聞くべきでは無かったのだ。
「承太郎さんが悪い訳じゃねぇだろ」
彼はただ大切にしたかっただけだ。その方法を間違えただけで。頭の良い彼が、唯一犯した最大の過ち。そのお陰で今、俺が隣にいる事が出来るのだけれど。
「結婚は出来ねーし、ドレスにも縁はねぇけどあんたを絶対幸せにするよ」
「…プロポーズか?」
「言い伝えなんでしょ」
しばしの沈黙の後、承太郎さんは俯いた。どうしたんだと思えば、肩が小刻みに揺れている。
「…何笑ってるんですか」
「笑ってない」
「口元がニヤケてる!」
人がシリアスな気分に陥っていたのに、綺麗にぶち壊してくれた。ふっと空気が緩んだのが判る。判るが、何とも恥ずかしい。
「もう良いっす!バカッ!」
「まぁ怒るな。…仗助」
「何っすか!」
大股に歩き掛けた俺が呼び止められ、渋々と振り返れば子供のような笑顔。文句を云い掛けたが、ぐっと詰まる。この顔はヤバい。こう云うときは大体決まって、
「幸せにしてくれよ?花婿様」
ああ。矢張り。耳元で囁かれた甘い声に、此処が公道であることも忘れてしゃがみ込んでしまった。
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