2012/06/03 00:07

「動いたらブチ抜きますよ」

黒い拳銃の先端を後頭部に押し当て、映画でお決まりの台詞を一つ。決して玩具じゃない、本物の弾丸が入ってる。

「何だ急に」
「両手を上げて下さい」

素直に高く掲げられる腕。手首にはお気に入りらしいタグ・ホイヤー。俺よりも長く時を過ごしている彼の愛用品。

「よろしい。じゃあ次に質問に答えてもらえますか?」
「内容次第だ」
「拒否権はありません」
「確かにこの状態じゃあな」


くつくつと揺れる肩。
釣られる様に俺も少し笑って、グリップを握り直した。堅い感触が手の熱を奪っていく。

「で、何だ」
「俺の事好き?」
「好きだぜ」
「早っ!」

まさかの即答。幾ら何でも少しくらい戸惑うべきだろこの状態で。頭は良いのに、何故一ミリも空気を読まない。


「困惑とか恥じらいとかは?」
「海に沈めた」
「拾ってきて下さい。今すぐに」
「動いたらブチ抜くんじゃなかったか?」
「俺の事が好きなら良いです」

押し付けていた拳銃を下ろす。白い帽子に僅かに跡が付いていた。傷などは無い。あったら即座に直さねーと殺されかねないが。
そして首だけ振り返った彼が浮かべていたのは、何処か愉しげな目。


「知らなかったのか?」
「不安になったんで」
「仮にも恋人にチャカ向けるとはな。…しかし様にならねーなお前が持つと」
「それは知ってますけど」


不意に俺の手から重みが消えた。変わりに、先程押し付けていた銃口がこちらを見つめている。
あれ、最近同じ様な光景を見た気がするが。デジャヴ?


「撃って良いか」
「様にはなりますが、シャレになりませんよあんたの場合。的確に脳天気撃ち抜かれそうだ」
「狙った獲物は逃がさねぇ」
「仮にも恋人だとさっきあんたが云いましたよね」
「仮にも、な。…Hold up!Mr.Josuke!」
「英語禁止!」
「手を上げろ、仗助」


簡単な筈の英語は余りに流暢で聞き取れなかった。日本語で告げてもらい、漸く俺は手を掲げる。


「要求は?」
「…やってはみたものの考えてねぇな」
「うわっ、適当〜」
「じゃあ愛の言葉でも囁いて貰おうか。英語で」
「……ア、アイラブユー?」
「……ぶはっ」


片言の言葉に、思わず承太郎さんは銃を下ろし吹き出した。余程ツボに入ったのか、声を上げて笑っている。確かに英語は万年2だけれと幾ら何でも失礼だ。


「ウケすぎ!」
「……すまん。色々面白かった」
「色々とは何っすか!!」
「片言さとあの表情が」


思い出したのかまた笑っている。いい加減面白くなくなって一人で帰ってしまおうとした時、後ろから抱きすくめられた。


「承太郎さん…重い」
「まぁ軽くはねぇだろうな」
「ずっと笑ってるから帰ります」
「拗ねるな。…発音教えてやる。…I love you.darling」
「っ……」

吐息が耳に触れる程の至近距離で、あの綺麗な声でもって甘く囁かれ落ちない人間が居たら是非連れてきて欲しい。黄綬褒章でも渡してやりたい。
当然俺は一瞬で腰から崩れ落ちた。完璧な勝利だ。勿論、承太郎さんの。


「こんな危ないモンを恋人に突き付ける奴はお仕置きが必要だよな?」


座り込む俺と、ご丁重に正面まで回って拳銃を向ける承太郎さん。端から見たら事件じゃねぇか。正しくマフィアなボスに脅される若いチンピラの構図と云うのが一番しっくりくるか。


「じょ、承太郎さんだって…」
「じょーすけ、すき」
「………」
「帰るぞ。座り込んでるなら置いてくぜ」


子供のように輝いた瞳で差し出された腕。宙に投げ出された拳銃は鈍い音と共に最強スタンドが砕く。暴発しなくてなにより。そして本当に引かれそうになった腕に俺は慌てて追い縋った。




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別に意味はない!
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