何から聞けばいいのか、もはや何を口にするべきなのか。これからどうするべきなのか、どうされるのかという不安もやっぱり拭えない。 鈍色な感情が蠢いている私の手をぞっとするくらい自然な手つきでとる嘉禄に瞬きをする暇もなく立ち上がらされた。 何も言葉は発さず、ただ連れられるがまま足を進まされて一体どこへ行くのか、そう思ってもなかなか目的の場所へは辿り着かない。 …ただの散歩、らしい。いや、ただかはまた別として。 「久しぶりだね、こんな風に二人で歩くのも」 とは言われても覚えがない。それでも今の言葉を彷彿とさせるような言動はあった。思い出したくもないけど、確かにあれは覚えている。 「あの時手放したりさえしなければって今でも思うんだ」 『……』 遠くを見据えて僅かに目を細める嘉禄に不覚ながらも目を奪われてしまった。こんなに儚げな目をする人間を目の当たりにするのは初めてだったということもあるけど初めてそういう表情の変化をこの目に映しているからかもしれない。 嘉禄は何者…?私の…、 「でも」 『…!』 隣に居るにも関わらず悶々と考え込んでいたせいで向き合うように両手を掴まれていることに漸く気付いた。反射的に顔を上げればいつもの優しげな眼差しと目が合う。 「…これで元通り。もう離したりしないよ、蒼」 『…でも、』 知らない。一方的に知って…いや、覚えていられることがこんなに困惑するなんて思わなかった。それでも一方的に知られていても逆に私はそこまで知りたいとは思わなかった。 知ったって、 「でも、何?」 『…前のことなんて知らない』 「…そうやって、また俺から離れようとしてるの?」 『……』 「ねぇ蒼、もう再三猶予は与えたよね?あっちの世界のことはもう忘れるんだ」 『あっちって、』 貳號艇のこと?確かめるように目を向ければ相変わらず穏やかな表情、だけどどこか冷え切った色をしているようにしか見えなかった。 「いい加減俺のものになりなよ、蒼」 『…っ』 「!」 俺のもの、そう手を私の頬に滑らせるけど顔を逸らす様にその手を払った。少し驚いたような目をされたけど嘉禄のものになる理由、私にはない。 「少し…遊ばせ過ぎたのかな」 『え…?』 その言葉と同時に私の目に視線を絡ませてきた瞬間足元に力が入らなくなってすぐ傍のベッドの足に脚をとられてしまった。竦むというか、でもそういう次元じゃなかった。 私の体自体が嘉禄に恐怖を感じてるんだ。私が思う以上に。 「…蒼」 『!』 ゾクッと背中に粟ができていく感覚。耳元で名前を呼ばれただけなのにそれだけでこんな反応するとか笑えない。 いや、笑えないのはもう片腕で脚を撫でつけてくる感触。閉じたくても既に嘉禄の身体が邪魔で閉じることができない。 拒む理由はある、なのに声が出せない。 Psychedelic |