皆が寝静まったハッチでぼーっとすることが増えた。 星がよく見えるしそんな夜風に当たることが心地いいし、無心になれるから。 (ずっと、) こんな風に皆と過ごすことが当たり前になってて、それ故にずっとこんな風に過ごせればいいのに、そう思うようになっていた。 だからこそ、余計に不安でもあった。 このままなわけがない。あれから嘉録や白黒、あっち側は表立った動きはない。不気味なくらい平穏。 あっち側の人間の当初の目的は无、なのは今も変わらない。 无は嘉録に会いたがっているし、それが目的でもある。 私はそんな彼から逃げていて、矛盾が生じている。 「蒼?」 『え、无…って、大丈夫?』 「う、うん!」 まさかこんな夜更け、それもあと数分で日が昇る時間に无がふらりとやってきた。おぼつかない足取りにヒヤヒヤしながら足場を崩しそうになる无の手を取ればポスっと私の胸に収まった。 『もう、どこが大丈夫なの?』 「ご、ごめん…でも」 『ん?』 「…なんていうか、蒼が」 『え?何?』 風の音でよく聞こえない、だけど必ず无なりの目的がなければわざわざこんな場所に来ないはず。 『无は、此処が好き?』 「うん!俺ね、みんなが大好きだから、みんなとずーっと一緒に居られるようにいっぱいお手伝いするんだ!」 『…そっか』 无、随分男らしくなったな。どんどん変わって、大人になってく。无の原動力は一体何なんだろう。 「俺…」 『え?』 「蒼もね、すっごく大好きなんだよ!」 『うん…分かってるよ』 「だからね、なんていうか…変なんだ」 『変…?』 「俺もよくわからない、だけど!」 いつになく焦燥感みたいな妙な焦りを滲ませる无を落ち着かせるように肩を抱く、けどそんな意識も束の間、 (…!!) 『え、』 「…だ、誰?」 (どう、して…?) ありえない、ありえていいわけがない、なのに… 「夜分遅くに申し訳ありません」 『黒、白…!』 ううん、今はそうじゃない。それよりも 「え、え…嘉、録…?…嘉禄!!」 『どういうこと…?』 黒白が抱いているのは明らかに見覚えのある…嘉録。だけど様子がおかしすぎる。 息、してない…? 「嘉録様の命令でこちらに彼を置いてこいと…その代わり」 『!』 目が合った。黒白の目的は无じゃない。 『无、逃げて』 「え、え…嘉録、どうして…しっかりして!」 だめ、聞いてない。ていうか届いてない。 『んっ!?』 「蒼?!」 「…蒼はこちらで預かる、そうお伝えください。貴方はまた後日、伺います」 背後をとられて口を塞がれた。迂闊、そう思っても遅い。ここにはもう、 (…!) 『平門…っ!』 白黒に抱きかかえられ消える瞬間、平門の姿が目に映ったと同時に叫びに近い声で名前を叫んでいた。 届いたかはわからない、だけど目を見開く平門の顔が脳裏に焼き付いた。 *** 「…おかえり、蒼」 目が覚めた見知らぬ部屋。初めて現実として鼓膜に響く声。 「やっと逢えたね」 これは悪い夢、そうであってほしい。逢いたかったと向けられる愛しげな眼差しは私のよく知る嘉録…だけどさっきの彼も、嘉録。 だけど今抱きしめられるこれは紛れもない現実、じゃなければ長い夢の始まりの方がどんなにいいかと思う。 この瞬間胸の痣は蕾から完全に花開いていた、そう目の当たりにすることになる。 Psychedelic |