また変な奴に目をつけられてしまった…しかもあの喰君かと思うともやっとした。笑顔の胡散臭さでいえば平門に匹敵するとすら思う。 『…誰?』 「俺、與儀だけど…」 『見切れてないで入ったら?』 遠慮がちにひょこっと顔を出す與儀。どうやら一人でやってきたらしい。てっきり花礫や无も連れてくると思っていたのにちょっと珍しいかもしれない。 「…体調はどう?」 『平気』 「傷は…あ」 『え』 ていうか今回入院しているのはあくまで検査、ということになっているはず。傷を負っていることは平門、それに燭先生しか知らないと思っていたからうっかり素で声が出た。 與儀も與儀でしまったと言わんばかりの声と表情…ということは、 『知ってるんだ』 「…うん」 『どこまで?』 「平門さんから…全部聞いた。ていうか実はね、平門さんの後を追ったんだ。だから…」 『見ちゃったわけね』 「平門さんが血相変えて逆方向に飛んでいったからさ、気になって追いかけたんだけど…うん」 それっきり言葉を無くしてしまった與儀だけど心配させないように繕っているのか辛うじて笑顔を貼り付けているように見えた。 『驚かせちゃったね』 「…ううん」 『あれで驚かない方がおかしいよ。実際私も…びっくりした』 「蒼ちゃんは、平門さんをどう思う?」 『平門を?』 あぁ、そりゃあそうだよね…。 『変人、だけど絶大な力と支持をもってるのは分かるよ悔しいけど。それに與儀だって本当は分かってるんでしょ?』 犠牲は厭わない…それが味方だろうと目的のためともなれば。でも平門の判断はいつだって正しい。反感を買われても結果的に正当化できてしまう。 「じゃあ今回のも…そうやって片付けるの?」 『え?』 「だって平門さんは…!」 『與儀、もう過ぎたこと』 「でも!」 『じゃあ與儀。仮に今私が平門を許さないって言ったらどうするつもりだった?』 「それは、」 『…だからいいの』 きっと與儀は平門に不審感を抱いている。だけどそれを受け入れたくない自分も居て葛藤してて…自分でもどうにもできないんだと思う。 『泣き虫』 「だって…っ」 『優しいね、與儀』 「…え?」 與儀は優しい。いい年してかくれんぼ大好きだしお菓子も大好きだしピーマン嫌いだし。 『ねぇ與儀…私、邪魔じゃない?』 「え?」 『甘えちゃいそうなんだ。みんなすごく優しいし気にかけてくれるし…何も返してあげられないのに』 みんなみたいに特別な力も戦闘力だってない。喰君の言う通りただの荷物なのかもしれない。そう思うにつれ視線が落ちたけどふと頬に手を添えられたことでそっちを向いたら見たことがないくらい真剣で物悲しげな與儀にドキッとした。 「…蒼ちゃん、間違ってもそんなこと言っちゃダメだよ」 『!』 「此処に邪魔な人なんて一人もいない。みんな大切な仲間だよ?それとも蒼ちゃんは…そう思ってないの?」 『ごめん…そうだよね』 「邪魔だって思うならもっと迷惑かけて?後ろめたいって感じるくらいならもっと頼って迷惑かけて?」 『…りが、とう…っ』 至って普通に口にしたつもりなのに言葉に躓いた。それと一緒に涙腺も切れてしまったようでポロポロと涙が止まらなかった。 優しさが痛い、でもこれは荒みきった私の心に沁み込んだ故の優しさの痛み。 Psychedelic |