「おかえり、黒白」
「…申し訳ございません」
「いいよ、顔を上げて?」

一瞬の隙を突かれて捕獲し損なったことは最大の失態、にも関わらず嘉禄様は穏やかに受け入れて下さった。


(それにしても…)

嘉禄様が探す蒼という女…まさかあの時の女だったとは。そんなことよりも


(平門…一体なんのつもりだ?)


躊躇いなく蒼の心臓の脇を貫いた。部下が見ているにも関わらず…その僅かな隙を突かれた故に掴みかけた手を奪われた。

まさか平門が自らの手であのような手段を下すとは思わなかったが逆に言えば…それだけ蒼をこちら側に渡さないという意思表示だったのかもしれない。


「貴様…っ」
「信じられないといった顔ですね、白黒さん?」
「殺す気だったのかその女…蒼を」
「まさか、ただそちらに渡す気は更々ないのでね。時と場合によっては手段は選びませんよ、敵だろうが味方だろうが…可愛い部下でもね」



「…神妙な顔だね。でも蒼とは会えたんだろう?」
「はい、しかし…」
「気にしなくていいよ、だけどこれで尻尾は掴めたはずだしだいぶ動きやすいんじゃない?」
「それはそうですが、」
「でもまさか…」
「…?」
「いや、やっぱり彼に匿ってもらってるんだなって。貳號艇長の、ね」
「どうなされますか?」
「このまま彼等の後を追って。それから蒼「嘉禄様」…何だい、黒白」

俺が屋敷を出るときに嘉禄様は言った。独りで彷徨っている女性が居たらそれが蒼だと…見つけたら胸の痣を確認してみるように、と…。

まるで行動を先読みするかのような言葉は的中…結局上からの命令も嘉禄様の命令も同じだったことにも驚かされた。


「…いえ、承知しました」

嘉禄様は一体何を知り、何が目的なのか…どうして蒼に執拗に執着するのか未だに分からない。


「黒白」
「…はい」
「蒼は俺の恋人だよ」
「は…」

恋人…?いや、ありえない。この屋敷以外殆ど表に出たことがないうえ…でも嘉禄様の目は嘘でも冗談でもないのは分かる。


「蒼は俺のもの。誰にもあげない」


(…!)


言葉自体は嫉妬ともとれるしいつもの優しげな瞳。違うのはその奥の…はっきり言って殺意にも似た鋭い眼光。

嫉妬…?そんな可愛いものではない。
一体誰に向けての言葉で宣言なのかはだいたい予測はつくにしろ謎は深まるばかり。


抱いてはいけない蒼への興味は刹那的なものだ。


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