「何だ、今仕事中だ」
「おうお疲れさん」
「喰から追加資料を受け取ったが…どういう風の吹きまわしだ?」
「それはこっちの台詞だよ。まさかこんな展開になるなんて思わないっての」
「随分感心があるようだが…お前何か言ったのか?」
「何かって程じゃねぇよ…それよりアイツ、寝たらしいじゃん?」
「…それで?」
「1ヶ月ぶりだったか?どうよ、何か分かったか?」
「それが言いたいわけじゃないだろう?」

任務中に電話を寄越すことは度々あるにしても今回は少し妙な感じがした。いつものような底抜けの明るい声音だからこそ少し違和感を感じる。


「あぁ、バレた?なら遠慮なく言うけど…平門お前どういうつもりだ?」
「言葉の意味が分からないな。もっと端的に言ってみろ」
「アイツの嫌悪することを今このタイミングでやらなくてもいいだろ」
「成る程…心配しているわけだな」
「茶化すんじゃねーよ」

…!


「…茶化す?そんなつもりはない。それに何れこうなるなら先延ばしにしたって仕方がないし状況が深刻化してからでは困る。蒼はうちの組の子供だ」
「子供、ね」
「…今日はやけに素が表立ってるな。珍しいな」


「ちげぇよ」
「!…何だ、来てたのか」
「やっぱ顔見て話したほうがよさげだからな」
「まぁいいだろう」
「……」

俺を見据える目はいつもと変わらない、それでも違うといえばその目の色がいつもよりも冷淡であることかもしれない。


「俺が裏でコソコソされんの嫌いって知ってるよな?知ったうえでそうやってんなら俺でも怒るからな平門」
「それをお前が言えるのか?その言葉、そのままそっくりお前に返せる言葉でもあるのは気付いているんだろう?」
「お互い気付いてるうえでお前は蒼に無茶させたんだろ。そっちの方が本末転倒だと思うんだけど?」
「無茶をさせなければ状況を打破できないと判断したからだ。それがどう転ぼうが今の現状の微温湯よりはよほどマシだ」
「…あっそ。今回ばかりは俺はお前の考えに理解しかねるわ」
「それは残念だな…情はあっても俺は甘くないからな」

情があれば何でも許すわけではない。特に蒼の場合は未だに不明な点が点在しすぎているのが現状。

それに蒼はまだ全てを吐き出したわけではない。嘉禄の名を出したことは収穫だったにせよそこから先は俺の憶測でしかない。ただ確信はしている。

寝かしつけようとした時の不安げな表情は自分でも驚いた。それと同時に蒼は俺が思っているよりも恐怖と背中合わせになっていたことに気付かされた。


(嘉禄…何をした…?)


無理に目を覚まさせたときの蒼の瞳の奥は微睡みながらもひどく揺れていた。俺が何をしたかも気付けなかったことにも驚いたがもしかしたらそれ以上のことを蒼は…


「平門…蒼を匿う以上それ以上の情をもつことは自殺行為だぞ」
「…面白いことを言うな」
「本当のことだろ?ま、とりあえず俺は戻「朔」…ん?」


「お前も俺と同じことが言えると思うんだが…違うか?」
「…さぁな」

あの時の朔が蒼へ向ける目は今まで見てきた中でも一番優しく、穏やかだった。ただの心配からくるおせっかいとは明らかに違うことは明々白々。


「俺は蒼が可愛いだけだ」

(…!)


そう言い残して姿を消す瞬間見せた表情、これはもはやただの情ではない。


Psychedelic
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