「…突然来るなり無言とは私の仕事の邪魔をしたいのか」

アポなしで平門がやってくることは今まであったにせよ今のように緘黙を保つことはない。それも表情がどことなくいつもよりも険しい。

(…珍しいな)

それよりもまさか、そう思うも蒼から話すようなことは間違ってもないし相手が平門とくれば何があっても口は割らないはずだ。


「単刀直入に聞きますが」
「何だ?」
「燭先生はいつから知っていたのですか」
「…何のことだ?」
「蒼の身体のことです。先日こちらで検診を済ませたはずですが」
「あぁ、慢性的な不眠症だったな」
「…それだけですか?」
「何が言いたい」

おかしい。まさか蒼は平門に言ったのか?…いや、そうせざるを得ない境遇に持ち込まれたのか…。


「蒼の血液が今どうなっているのかはご存じでしょう?」
「お前、」
「荒手ながら蒼に吐かせました。あれが全てとは思えないですが」
「……」

堅物な蒼の口を割る、だと?お前一体何を、


「蒼は夢の中で嘉禄と出会ったそうです」
「何?」
「蒼の慢性的な不眠症は彼の拒絶からくるもので恐らく合っているでしょう。未だに何者かも敵かすら分からない人間に夢の中へ誘われること、決まって同じ景色で二人きりになる所謂密室と言える環境で、嘉禄は蒼の心臓が欲しいと、言ったそうです」
「心臓…?」
「燭先生。検査前の蒼の血液は正常だったんですよね?」
「あぁ」
「しかし脳波を検査しようと横にならせたのを見計らったように嘉禄は蒼を夢の中の自分のもとへ連れていった。目を覚まさない蒼へ燭さんは再度採血をした…ここまで合っていますか?」
「……」
「何を起爆剤にしてこうなったのかは蒼自身、まだ煙に巻きたがっていますから深層まで触れられていませんが…燭さんはどう思いまか?」

推測ながら断言するかのような口調。やはり平門は並大抵の頭脳と状況把握能力ではない、か。


「やはりカフカが絡んでいると俺は踏んでいます」
「そうだとしても根拠がない」
「その為のサーカスですよ」
「下手に動いたらダメだ。現段階では」
「暫くは様子をみるつもりではいます。蒼のこともあるので」
「…蒼は今どうしている?」
「蒼なら艇のどこかに居るはずです。そろそろアイツも来る頃だと思いますし」
「アイツ…?」

だとしてもわざわざどうしてと思うのも仕方が無い。そんな俺を尻目に平門は踵を返す、が…当初から気になっていたことがあった。


「まさか…怒っているのか?」
「…何のことでしょうか」
「蒼に口止めされていたとはいえ…お前の部下である蒼の情報を伝えなかったことだ」

もう一度こちらを振り向く平門は珍しく意表を突かれたような顔、だがそれも瞬きをする程度。いつものいけ好かない表情に戻っていた。


「さぁ…ただ情報云々ではなく」
「…?」

「俺以外に秘密を作られるのは正直いい気はしません」

紳士さながらの表情を認め扉の向こう側へ消えるが今の言葉は俺ではなくそれは蒼に対してなことは平門の空気で分かる。


「どういうつもりだ?!得体も知らない人間など上が黙っているわけがないだろう平門!」

「全責任は俺が負います」



「……」

闘員への情は人一倍なのは分かる、だが蒼に限っては…それだけなのだろうか。


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