「蒼、聞こえなかったか?」
『…聞こえてます』
「なら見せてみろ」
『嫌です』

というのも言い逃れという言い訳を考えていない。さっきの平門の顔を見ればもう逃げたって無駄だと思っても本能的に言葉を探しているのだ。


「…絵の具て遊んでいたようには見えないが」
『そういうことにしてくださ…、』

言い終わるより先に手すり側の右手を掴まれてしまった。伏目だった目も顔も反射的にそっちを向けば今にも食ってかかりそうな態勢の平門に思わず腰を引こうとしたけどそうもできない。


「……」
『何ですか…』

指先はもう乾いたとはいえまだ蒼く汚れていた。目を細めてそれを見る平門は一体何を思っているのか…だけど平門は何も言わない。


『もういいでしょ…』
「蒼」
『だからな「約束だっただろう?」……』

隠し事はなしだ、そう言いたいことくらい分かるし、いくら私でも忘れちゃいない。


『一方的じゃないですかあれは』
「だが否定も肯定もしなかった」
『じゃあ嫌です』
「それは詭弁だな。もう俺には通じない。

…蒼、話せ」

『……』

話せと言われても実際、根拠がないし憶測。夢の中の出来事なんて言ったら本格的に頭がおかしいと思われるのも目に見えている。

だけどこんな平門の顔を見てしまったらもう拒否権はあってもないようなも、


(え…?)


「…これは最近の傷跡だな」
『え…な、』

何がどうなったのかなんて私が聞きたい。どうして圧し掛かるように押し倒されてるの?しかもスカートの裾が肌蹴てそこに手を這わせてくる平門に正直驚いたレベルじゃない。


「お前は一見何事にも動じない、にも関わらず自分の身を傷つけてまでこんなことをするということはそれだけ動揺していたんじゃないのか?」

傷をつけていたのは事実。腕だとすぐにバレるから死角になる脚に傷をつけるようになっていた。その証拠に私の脚の一部は直線を描く短い傷跡が至る所に残されている。


『……離して。話したくない』
「この状況で泣き真似をすればそれで済むと思ったか?」


え、


「俺は寛大だ。ある程度部下の行動に目を瞑るのは情があるからだ。

だがこれは別物。俺は甘くない」
『…平門、』
「もちろんお前にも情はある」
『聞いてないそんなこ「主導権は今は俺だ」…は、何言ってるの?』
「蒼、お前はもっと頼ることを覚えろ。

…泣きたいくらい怖いんだろう?」

最後の言葉に思わず目を見開いた。そんなこと今の今まで言われたことなんてなかった上このタイミング。もう自分が何を考えているのか、何を言いたいのかも分からない。


「泣き方が分からないなら今俺が泣かせてやっても構わない」
『え…』

背中に手を回されて起き上がらされたと思えばさっきよりも密着する感触。
考えなくたって抱きしめられていることくらい分かるけどなぜか押し退ける勇気も、その気もなかった。



「見ないでおいてやる。それなら泣けるだろう?」
『…っ、泣けるわけ…っ』
「蒼…話してくれるな?」


(あぁ…)


平門のくせにありえないくらい優しい声音にもうどう抗っても無駄だと思った。

もはや小さく頷くことしかできない私をあやすわけでもなくただぎゅっと抱きしめる平門に私は少しずつ言葉をつなげた。

一体どんな顔で聞いていたかなんて分かるわけがない、でも途切れ途切れでも言葉を繋げられたのは思いの外居心地は悪くない平門の胸に収まっているせいなのかもしれない。



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