H or L
もしも円堂が伝承の鍵を付けてしまったら・2





「へっ、こりゃあ上玉な魂に渡ったじゃねぇか。中々に美味そうだなァ」

「…これほどまでの魂を人間が持っているとはな。なら、彼の者も満足するだろう」






「…それで、お前はその怪しげな2人組にそのブレスレットを貰ったわけだな」
宿福食堂内に、鬼道の切羽詰まった声が木霊する。
室内には、怪しげな腕輪を付けたままの円堂、その真正面に鬼道、円堂の左に豪炎寺・右にヒロト。
他にも揃っていたりするのだが、皆遠巻きに事態を見ている。
「あぁ。…その人たちは、伝承の鍵って言ってた。お近づきの印に、贈り物にどうかって言われて」
「ちょっと待って円堂君。今、伝承の鍵って言ったわね?」

マネージャー達と一緒に座っていた夏未が、いきなり円堂に割り込む。
その表情には、少しばかり焦りが見えていた。
「お、おう。その人たち、確かに伝承の鍵って言ってたぞ。…心当たりでも、あるのか?」
「―――そこまで確証があるわけじゃないけれど、その伝承の鍵っていうのは、この島だと【天と地の王からの贈り物】と言われていて、魔王伝説にも関係があるとされているものなの」


「「「魔王伝説?」」」
「この島に古くから伝わる伝承よ。それに関係があるとされているから、伝承の鍵。…どうやら円堂君、貴方はまた厄介ごとに関わってしまったのかしらね?」
「…それが本当だとして、なんでそいつらは円堂ちゃんにそれをやったのかねぇ。誰でも良かった…てわけでもなさそうだしな」
涼し顔で扉に持たれていた不動だが、ドタドタ、バンッ!という音と共に扉から押される。
そうして扉を勢いよく開いたのは…円堂の証言を聞いて、腕輪を渡した人を探しに行った面々だった。


「おい、円堂!本当に塔子たちの言ってた服屋の前だったのか!?」
「ああ。確かに、服屋の反対側だった」
「綱海君、落ち着いて。…あのね、キャプテン。そんなお店、どこ探したってなかったよ」
吹雪の発言に、その場の空気が凍る。
「そうなんです。円堂さんが言ってた、【鬼道さんみたいなゴーグルを付けた双子のおじいちゃん】っていう人たちもいなかったんです。服屋の店員さんに聞いても、そんな人見たことないって…」
その場にいた全員が吹雪を見、立向居を見、そして円堂の腕を見る。

両腕に嵌められたそれは、またしても不気味に光っている。



「ひっ、ひいぃいぃいいぃ!!ままま、まさかそれ、呪われてたりするんっすかーーー!!?」
「バッカ、落ち着けよ壁山!なんでそんなことになるんだよお!!」
どうやら老人=幽霊という想像をしたのだろう、壁山が叫びだし、木暮が叱責する。
しかし他の面々は得体の知れない物を付けられた円堂を見ていて、それを注意する人物などいない。



「―――それで、どうする円堂。そんな物を付けていて大丈夫なのか?」
「んー、キーパーグローブしてれば隠せるし大丈夫だと思うんだけどなあ」
「…いや、俺はサッカーをするという前提ではなくて日常生活を過ごすという前提だったりするわけなのだが…。まあいい。とにかくその魔王伝説というのも気になるしな、少し情報収集をしようじゃないか」
いつも通りサッカーを大前提に持ってくる円堂に困りながらも、鬼道は提案をする。
「そうだな。決勝戦まであと4日。それまでにはこの腕輪を外してやらなくちゃな」
初めからただ見ていた豪炎寺だが、そう言って円堂の頭を少し乱暴に撫ぜる。
それに殺気立ったものが多少はいたが、円堂の前でそんな行動に移すわけにもいかない。



そんなわけで、【どうにかして円堂から腕輪を外す】という目的ができたジャパンメンバーたちだが、そんな彼らに近づく気配に気づく者はいなかった。





「マモルウウゥウウゥウウゥウ!!エンゲージリングを貰ったっていうのは本当かい!!!!?」
再びドアが勢いよく開かれ(不動はまた吹き飛ばされていた)、止める間もなく円堂の背に抱きついたのは、イタリア代表のーーー

「フィ、フィディオ!!!」
「あああっ、それだね!?その変なアルミッラ!!可哀想なマモル、そんな得体の知れない物を着けられちゃって!!」
焦る円堂の声は無視して、ひたすらにブレスレットそ外そうとするフィディオ。
いきなりの事に硬直していたジャパンメンバーだが、次第に平静を取り戻してーーーーー


「おい、円堂から手を離せよ」
「ちょっと君。円堂君になれなれしく触らないでよ」
「ちょっと動かないでくださいね、円堂さん。今からその害虫を駆除しますから☆」
「…ふーん、馴れ馴れしい人が来たねぇ、染岡君。なーんかムカついてきたな」
「吹雪、ザ・ハリケーンだ」
「……」


円堂にしがみ付くフィディオを剥がそうとしても実力行使に移るわけにはいかずに、凄みを効かせる面々。
しかしそれを物ともせずに相変わらず腕輪を外そうと試みるフィディオを、後ろから引きはがした手があった。


「こらフィディオ。いい加減にしないとジャパンメンバーが殺しにかかってくるぞ」
「HAHA、相変わらずマークのブラックジョークはスゴイねえ!!」「いや、どう考えても本気だろうが」
「ふっ…賑やかでなによりです」


「…なんか煩いのが増えた気がするぞ」
「イケメン揃いや!まっ、ダーリンには敵わへんけどなぁ」
初めて海外のキャプテン達を間近で見た塔子とリカは、それぞれ反応を返す。

「みんな、どうしてここに」
「最初はイナズマジャパン達の練習に参加しようとして来たんだけどな」
「ユー達がグラウンドにいなかったから、おじいさんに聞いたんだよ。そしたらエンドーが何やら可笑しな事に巻き込まれてるって聞いてね!」
「…古株さんだな」
まったく、余計な事を…と鬼道は眉間を解す。
「んで、何があったのかを聞いてたらコイツがいきなり走り出してな。こうして来たってわけだ」
溜息混じりにそう呟いて、テレスはフィディオを引きずっていく。
「マモルー!マモルー!!」
「お前はちょっと外で頭でも冷やしてろ!」


「…まあ、そんなわけでね。もし何か力になれるなら協力しようと思っているんだが、どうだろう?」
そう言ってエドガーは騎士のように円堂の手を取る。
「うーん、でもなんか今のとこは取れないだけだし…害はないように思えるんだけどなあ」
「なんでそんな楽観視できるんだ、お前は。まったく…」

「まあ、こんだけいるんだからさ、一緒にサッカーしようぜ!!練習にもなるし、楽しいしな!」
結局サッカーに行き着く円堂に、一同は少し呆れるがーーー同時に、安堵もした。
普通あんな得体の知れない物を着けられたら誰だって不安に思う。
けれどこうして明るく振る舞えるのは、やはり円堂の底なしの陽気なのだろう。



その言葉に全員が返事をして、席を立った瞬間―――――稲光が、迸った。

「きゃあああぁ!!?」
「落ち着けみんな!!」
「thunderbolt!!?さっきまでは晴れてたのに!!」

『な、なんだ!!お前たちは!!!』
「!!?フィディオの声だ!!」
「玄関の方だな、行くぞ!!」


突然の雷鳴に驚き、そしてフィディオの声に不穏な空気を感じ取った一同は、玄関へと向かう。


円堂の腕にある伝承の鍵が激しく明滅しているのを、誰も気づかずに。







High or Low
(やってくる、伝承)







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