U or D
もしも円堂が伝承の鍵を付けてしまったら・1





「おっ、塔子にリカじゃないか!お前たちも来てくれたんだな」
「…あちゃー」
「見つかってもうたか…」


「しっかし、まさか円堂の祖父さんがまだノート残したなんてなー。驚いたわあ」
そう言いつつもリカは店内を物色し続けている。
それを見る円堂の手には、主にリカが買った荷物が握られていた。
「…ご、ごめんな円堂。リカが荷物持たせて…」
「ん?まあ気にすんなって。元々買い物するつもりだって言ってたろ?宿福まで先に連れて来ちゃったしな。これぐらい大丈夫だって!」
にっと笑う円堂につられて塔子にも笑みが浮かぶ。
傍から見れば良い雰囲気の2人なのだが、残念ながら一方にはそういった感情はないのが残念なところか。


「んー、塔子ぉ。どっちの服がウチに似合うと思うん?」
「え。そんなん自分で決めてよ…」
「いやや!ダーリンに会う時に着る服なんやから、とびっきり可愛い方がええやろ!!」
左右両手にハンガー付きの服を持って唇を尖らせるリカとそれを呆れ顔で見る塔子という状況は、些か円堂には居づらい雰囲気であり、少しばかり顔が硬直している。
「もーっ、円堂が困ってるだろ。…右の方が、似合ってると思うぞ」
「やーんっ、塔子ありがと!早速買ってくるわー」
渋々といった様子で塔子が服を指差した次の瞬間、風丸もビックリの俊敏さでレジへと向かったリカを見て、円堂は驚く。

「…リカの奴、すごいなぁ…」
「まあ―――気にしたら負けだよ、円堂」
そんな会話を2人がしたと同時に、ある程度は広い店内に突如人が雪崩れ込む。
「わ、わわ!」
「塔子!」
そのいきなりの奔流に不意を突かれてしまって、入り口付近にいた円堂と塔子は離れてしまい、そのまま何もできずに、店の外に出てしまった円堂は困り果てる。


どうやらこの店では今の時間からタイムサービスを行うらしく、店の人が看板を持って「タイムサービス中でーす」と声を張っていた。
そんな円堂のジャージのポケットから、振動と微かな音楽が聞こえる。
『あっ、円堂?今どこにいるんだ?』
「店の外だ。そっちは大丈夫か?」
『うん、リカとは合流できたんだけど…結構奥の方まで来ちゃって中々出れそうにないんだ』
確かにセールの籠は円堂と塔子の近くに置かれていて、そして今入り口付近は人が多くいる。
なら、多少時間はかかってしまうだろう。


『あー、円堂?ウチやけど』
いきなり塔子からリカに代わり、驚いたものの円堂は「どうしたんだ、リカ」と答える。
『ウチらちょっと出られんさかい、先にエリアに帰ってーな。ウチらも人が空いてきたら行くわ』
「でもお前達置いてくなんて…」
『ええの!疲れも溜まっとるやろ。いいから帰る!!分かったか?』
「う…、分かった。塔子にも伝えといてくれ」
『りょーかい!ほな、宿福で』
通話が終わり、携帯を畳んで再びポケットに仕舞う。
「なんだかんだで心配してくれてるんだなぁ」
心配をかけてしまっている事に不甲斐なさを感じて少し凹んでしまったが、言葉に甘えて先に帰ろうと円堂は荷物を持ってーーーふ、と向かいの店に目を止めた。



それは縁日の出店にある、アクセサリーの店のようだった。
よう、というのはそれを売っている人物が、双子のように風貌が同じ老人だから。
「あの…」
「「あぁ、いらっしゃい。なにか用かね?」」
同じ声、同じ動作で同じ事を言うその老人たちに円堂はぞっとしつつも、品物に目を止める。
「日本じゃあんまり見ないものがいっぱいあるな…」
「それはライオコット島の民芸品だからね。…、キミは」
「あっ、俺イナズマジャパンの選手です。なんかこの店が気になっちゃって」
ジッと顔を見られてびっくりしたが、鬼道のゴーグルのような眼鏡を掛けているため、あまり大げさに驚くことはなかった。

「そうか…キミは、とても大きな魂を持っているのだね」
「え、どうかしましたか?」
「いや…なんでもないさ。お近づきの印に、これをあげよう。伝承の鍵と云われる、この島に伝わるものだよ」
そう言って老人たちはそれぞれの手にブレスレットのような装飾品を乗せ、円堂に見せる。
それは青色と紫色で、不思議な魅力を放っていた。
「で、でも俺あまり着けないし…」


何故か円堂はそのブレスレットに嫌悪感を感じた。
貰ってはいけないと、身に着けてはいけないとどこかで警鐘が鳴る。

「キミが着けなくても、贈り物としてはどうだい?お土産のようなものさ」
「…」
しかし、その言葉に少し心が揺らぐ。
贈り物、という言葉を聞いて塔子とリカの顔が浮かんだのだ。

感謝の印として、贈るのもいいんじゃないのか?


「じゃあ…、買います。いくらですか?」
ズボンのポケットから財布を取り出そうとする円堂を、老人たちは制する。
「お代はいらんよ。しかしここには包装用の袋が無いんだ。悪いが手渡しで構わないか?」
「え、でもお金払わなきゃ…」
「いいんじゃよ。私達からしても、キミのような人に渡る方が嬉しいんだ」
「はあ…」


納得がいかないままに、どうやら円堂に渡すことが決まってしまったらしい。
申し訳ない気もするが、ありがたく受け取ることにした。
「荷物も多そうだし、腕に嵌めてあげよう。さあ、両手を出して」
「は、はい」
言われるままに手を出して、ブレスレットが着けられる。


―――何故か、光った気がした。







「あーっ、円堂やーっと来たんかい!!」
宿福に着くと、リカの大きな声が円堂を迎える。
「なんでウチらが先に着いてんの。どっかで特訓とかしてへんやろな?」
「ご、ごめんってば…」
リカの台詞にたじたじしながら、円堂は少し違和感を感じる。



自分は、塔子とリカがいた店の反対側にいた。
そしてそのまま寄り道もせずに帰ってきた、のに。

どうして塔子たちは、自分に気付かなかったのだろう?



「荷物持ちたぁ、大変だったな円堂」
「お疲れ様です、円堂さん!」
言って、綱海と立向居がそれぞれ荷物を持ってくれる。
その拍子にジャージの袖が捲れて、件のブレスレットが見える。
「…おい円堂、どうしたんだそれは」
「変な腕輪だね、円堂君。どうしたの?」
鬼道とヒロトの発言によって、その場の全員の視線が円堂の腕に注がれる。

「あ、そうだ。塔子とリカにあげようと思ってさ。あの店の反対側にあったアクセサリー屋さんで…あれ?」
円堂は焦る。
ガチャガチャ、と力づくで外そうとしても。



「は、外れない…!!」


不気味に、ブレスレットが光った。







Up or Down
(仕組まれた、罠)








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