HorH,A&D
もしも円堂が伝承の鍵を付けてしまったら・5



*


それぞれがそれぞれへ相対するその様を、円堂はただ見る。
ただ一緒にサッカーをしたいだけなのに不穏な雰囲気がそれを許さない。
そして後ろ手に縛められた手が動きを封じる。
どうにかして戒めを無くそうとあがく円堂に天が、運が味方をしたのか―――誰もが見ぬ内に、その警めから抜け出した。



「うぉおおおおおぉぉッ、グランドファイア!! G 2 !!!!!!!」
ヒロトと虎丸、そして豪炎寺が放った必殺技が天使魔界混合チームへと襲い掛かる。
それを必殺技で止めようとしたアスタロスだが、技は失敗しそのままゴールへと向かう。
しかし運が悪かったのかボールはフレームに当たり、ゴールは後ろに倒れる。


弾かれたボールは勢いを少し失って――――観戦していた女性陣へと向かった。


「なっ…!!」
「危ないッッ!!!!」
「春奈ァッ…」
突然の事に反応しきれず炎を纏ったボールはそのままに向かう。
誰もが諦めを抱いた刹那―――――――


「怒りの、鉄槌ッッ!!!!!」
躍り出た人影がボールの軌道を変える。
誰に当たることもなくボールは岩壁に衝突し、そして軽い音を立てて地に跳ねる。
黄色いドーム型のオーラでボールを外させた人物は、今し方まで捕らえられていた円堂であった。



「え、円堂…っ!!って、ちょっとその恰好!!!!」
礼を述べようと顔を上げた塔子だが、すぐ慌てて手を引き注意をする。
「そんな恰好でどうしてあの技を使うんだよ!!」
「あの技って…あれが一番止めれる可能性があったから「だからって!!そんな服で怒りの鉄槌は不味いだろぉ!」
塔子が指摘するのは、天使・魔界の民たちが円堂に着せた服。
上半身はふわりとしており、下半身の方は丈の長いキャロットスカートに深くスリットを入れたもの。


つまり、怒りの鉄槌のモーションでは腹チラを見ることができる上、生足を拝む事も出来るという代物なのである。

「ワアァァアアアァァッ、円堂くうううぅぅぅうぅうんんんん!!!!!!」
「させるか変態!!喰らえ!!!!」
「あぶぅっ!!」
いち早く円堂の元へ駆けようとしたヒロトだったが、風丸のシュートによって倒れる。
そんな様子を見てテレスは顔を逸らし、ディランは口笛を吹いて「COOL」と一言呟いた。


「えっ、円堂君!!!!どうやってあの戒めを…!!?」
動揺したセインは、横にいたデスタを押しのけて円堂に駆け寄る。
さり気なく両手を握っているその様に歯軋りをする者もいるが、全く気にする様子はない。
「そんなことより!!セイン、デスタ!!!!お前たちはサッカー好きじゃないのかよ!!??」



…その場にいた全員が、確かに空気が凍りつくという現象を体験した。
悪い意味ではないが、どちらにせよ円堂の発言によって全員の動きが止まったことには間違いはない。
しかしそんな雰囲気にも構わずに円堂は続ける。
「確かに、お前たちの技とかスピードはすっごいと思うけど…サッカーを楽しんでないだろ、お前たち。俺は…そんなサッカー、嫌なんだ」
「オイオイ、俺たちは球遊びをしてるんじゃねェんだぞ?これは儀式としt「黙れデスタ!!」ぐふッ」
円堂の言葉に反論しようとするデスタだったが、それはセインが蹴りつけたボールによって遮られる。
そんなデスタの悲鳴を無視して、セインは話を促した。

「だから、俺と一緒にサッカーしようぜ?お前たちとボールを蹴って、サッカーの楽しさを教えたい。こんなに楽しい事を知らないなんて、損だぞ?」
ニッ、と眩い笑みを浮かべて円堂は手にしたボールをセインに突き出す。
そして地に伏したデスタにも顔を向け、笑いかける。



「―――あれ?」
そんな素っ頓狂な声を出したのは誰だったか。
突然、天界と魔界の住人たちの体が淡く光り始めたのだ。
しかしその淡い光は少しずつ黒くなっていき――――



収縮したその場には、今までと違うユニフォームを身に纏った彼らがいた。




「うわー、ないわ」そう誰かが呟き、誰かが頷く。
今までいろんな事態や出来事が彼らに降りかかったが、流石にこんな展開は初めてだった。

あまりの事に固まっていた面々を余所目にデスタは円堂へと近づき…



そしてその腕を、思いっきり掴み持ち上げる。
力の加減が無いそれは円堂へ痛みを与えることになり、当然円堂の顔が痛みに歪んだ。
「そォだよなぁ?お前が言う事も興味あるしなァ」
「確かに。君が言うサッカーの楽しさを私たちにも教えて貰いたいね」


「オイオイ、あいつらキャラ変わってるぞ!!」
「一体何が…?」
「アレこそが、魔王なのだ」

困惑する一同に、今までジャッジをしていた老人たちが口を開く。
「この島に古くから戦い続けている天界と魔界の民は、云わば善と悪の抗争。誰しも心の中にあるそれによる戦いなのだ」
「だが、ついさっき天界の民であるセインが堕ちた。善の心と、悪に対する負の心しか持つことを許されない天界の一角が、だ。それによって魔界の力が強くなり、魔王を封じることはできずに魔王は復活した」

そして、同時に言葉を紡ぐ。


「「これこそが、現代に甦りし魔王!!千年祭の始まりだ」」




「てめェを最初に頂こうと思ってたが…まァいい。サッカーをしてやるよ。お前が、こちら側のチームに入って、な?」
「キミ自身が、キミの仲間と戦い、そして彼らの魂を我らに捧げる。クックック、なんて楽しそうなんだろうね、円堂クン?」
く、とセインが円堂の顎を軽く上げさらに顔を近づける。

「ちょ、アレはセーフなんですか風丸くん」
「アウトに決まってるだろが。なんかダークフェニックス今なら打てそう」
「おい馬鹿止めろ!!」
「マ、マモル…オレだってあんなことしてないのにぃいいぃいぃ!!」
「誰かこのおでん野郎を放り出せ!!!!」
「…こんな状況でマトモな試合ができんのかよ…」
「不動、風丸から攻撃されたくなかったら黙ってるんだな」


だんだんとカオス度を増していく雰囲気と、ゆっくりと近づくセインと円堂の顔。
あわや、それが触れ合う瞬間―――――――



円堂の額から、オレンジ色の拳が現れセインの頭を押しのける。
グギ、という嫌な音を立てて一気に両者の顔は離れた。


「セッ、セイン!?大丈夫か!!!」
「うぅ…。私は一体…」
「…おい、なんで正気に戻るんだよ…」
円堂のメガトンヘッドはセインの頭を直撃して、何故かそのままセインは正気に戻ってしまう。
そんな様子を見てデスタは肩を落とし、円堂は破顔する。

「…そうか、あのセインという天使は恐らく円堂によって正気を保てなくなったんだ。しかしメガトンヘッドで頭に衝撃を受けたことによって元に戻った。まあ、頭を冷やしたようなものだな」
「超次元すぎるだろ」
「海の大きさに比べたらどうってことねえだろ!!」
「円堂さん…ッ、流石です…」



「クソ…ッッ、ふざけるなよォオ!!!!!!」
場が和んだのも束の間、とうとう怒りが頂点に達したデスタが、敵意を露わにする。
「オレたちは悪魔だ!!そしてコイツは天使ッ!!!争うべき者たちなんだよォ…。オレたちにとってサッカーは神聖なる儀式!!お前たちみたいに楽しく遊ぶものじゃねえんだよ!!!!」
その叫びとともに、今までにないほどの重圧が圧し掛かる。
さっきまで談笑していた面々も、口を開けずにデスタを見るだけしか出来ない。
「だから円堂守!!お前の言うことはオレには理解できないッ!!!!お前の言う楽しいサッカーなど所詮お前の独り善がりだろう!?そんな下らないことを言えるとはなぁ…」
そしてそのまま、ダークマターの体制に入る。

「なら、お前の大好きな仲間を目の前で葬り去ってやるよ…。そして1人ぼっちになったお前をオレが貰ってやるぜ?あーっはっはっは!!!!」
高らかに笑い、そして放たれる一撃。
すぐさま身構える円堂だが、動き辛い服である事とグローブを嵌めていない事からすぐに背に庇われる。
「はんッ、無駄だぜェ?魔王となったオレの技が、あの時お前に止められた技と一緒だとは思わねえよなァァ?」
威力を増したダークマターが、一同に迫る。
技を発動させようとしていた立向居の前に―――セインが、立ち塞がった。


「デスタ…、忘れてないだろうな?」
「あぁ?」
「お前が魔王の力を得たように、今の私もまた魔王の力を有していることを!!!!」
どこから持ち出したのか、セインの手にはサッカーボール。
「確かに私とお前は戦いあうべき存在!だがどうして魔王は我らなのだ!?魔を信奉する貴様らだけでなく魔を憎む我らを取り込んでこそ魔王となり得る!?」
石壁に覆われた部屋を、眩い光が照らす。
その光はボールへと込められ、そして―――――!!!!


「我らにとってサッカーは争いの手段ではない!!それをどう取るかは個人の自由!!だったら、その意味を…我らは変えるべきなのではないか!!?」

迫りくるボールへ向けて、セインは技を発動する。
「ヘブンドライブッッ!!!!」
同等の力、反対の性質を持つ2つの技は拮抗し、鬩ぎ合う。
「うるせェ…うるせぇうるせぇうるせぇッッ!!魔王は全てを支配するんだよ!!それこそがオレたちの使命…!!それを否定させてたまるかあああああああ!!!!」
デスタが咆哮し、セインの技が圧される。

あわや打ち負けそうなその力を、淡いオレンジ色の手が支えた。


「そうだな、セイン。別に俺たちは争うためにサッカーをするんじゃない。その事をデスタに教えてやろうぜ」
その手の主はゴッドハンドを使用した円堂であった。

「円堂くん…!!」
「くそ、くそくそくそッッ!!なんでオレが、押し負けるんだ…ッッ?」
「デスタ!!確かにサッカーが楽しいっていうのは俺の独り善がりなのかもしれない。でも、それでも俺は知ってもらいたいんだ!サッカーは楽しくなるものなんだって!!!!」


両者の技が互いに互いを潰し、激しい閃光と衝撃波が辺りを襲う。
そうして光が掻き消え、戻った今。


天界と魔界、それぞれの服装は元に戻っていた。








「円堂くん、これを」
事態が終結し、老人たちによって再び魔王が眠りについた事を知った面々はマグニート山から去ろうとしていた。
そしてそんな一同を見送りに来たのはセインと、意外なことにデスタであった。
「これって…、伝承の鍵?」
「ああ。…それを、持っていて貰いたいんだ。是非とも君に」
「お前ほど美味そうな魂はそうそうねェからな。今のうちにマーキングしとこうと」
不穏な発言をしたデスタの顔面にボールが命中する。
そんな光景を見てセインは笑った。
「私たちの戦いは、千年に一度行われる。儚い人間の生では、きっともう逢える可能性は0だろう。…だから、それを見て私たちを思い出してほしい。そして出来る事ならば、君の血を、心を継いだ者に逢いたい」
その言葉は切なく、しかしハッキリと別離を意味していた。



「…分かった、預かる。だからお前たちもサッカーが楽しいってことを忘れないでくれ。それさえ覚えてくれれば、俺は」
「ああ、分かっている」
「どうしてもってなら、お前がオレたちの前に来ればいいだろォ?オレは歓迎するぜ?」


そんな他愛のない言葉を交わし、いつの間にか空は暗く染められていく。
「さあ、もう時間だ。キミたちを待っている処に帰るんだ」
「オレたちも還る。また千年後を待ちわびて、な?」



「「それじゃあ」」



最後はあっけなく、唐突に別れが訪れる。
しかし円堂は笑って―――腕輪を、握りしめた。



「円堂、帰るぞ」
「キャプテーン!!」
「マモルー、早く早く!」
「Hey,エンドー!ミーもうお腹空いちゃったヨ!!」


「あぁ、今いく!!」



揃いのデザインの腕輪が、小さく煌めいた。






HorH,A&D
(天国か地獄、天使と悪魔)




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