始まらないカウントダウン






これは偽善なのか、それとも逃げなのか。
そんなことを考えて、円堂は目を開けた。



「きっと、みんなは怒るんだろうなぁ」
そう呟いて、足元の小石を軽く蹴る。
呆気なく地から離れたそれは放射線を描いて、小さく音を立てて落ちる。
まるでそれが今の自分のように見えてしまって…少しだけ、切なくなった。


人に悲しませることはいけないことだと、円堂は幼いころにそれを学んだ。
祖父の遺影を見て泣く母の姿を見てそれは本当に悪いことだと知った。
誰かに無理をしていないか、と言われてもいつも「違う」と言った。
たとえそれが嘘でも―――悲しませるよりは、いいことだと自分に言い聞かせて。



何回見ればいいのだろう、みんなが苦しむ姿を、悲しむ姿を。
何度も抗おうとして…その度に自分の無力さを思い知るのだ。
『もう、いやだ。お願いだ、誰か―――俺を、  』
これ以上誰かが苦しむ姿を見たくないのに、いなくなることさえできない。
そう諦めていたのに、もう、諦めていたのに。



「              」



あの言葉が、まだ諦めさせてくれない。



だけど、もう何もできない。
流れを受け入れることしか、もう。
諦めとも思うけれども、自分が諦めるということは負けること、屈服すること。
だったら負けなければいい、みんなを信じ続ければいい。
どうにかしたいけれど…それすら出来ないから。



膝を抱えて座っていると、何故だか涙が溢れた。
「そ…か、あまり泣いたことなかったもんなぁ」
気を張って生きてきたけど、今はそんなことさえ出来ないなら泣いてしまっても構わないだろう。

大声で、泣いてしまったって。



「う、うぁああああああ、あああぁあああぁああ、あぁぁぁぁああ!!!!」
止まらない、止まらない、止まらない。
こんなに心から泣いたのは久しぶりだ。
あの時泣くことを自分に禁じて、今までみんなと戦ってきたから…本当に久しぶりだ。

誰もいないから、誰も自分に気付かないから泣ける。


人がいてもきっと気づかない今だからこそ、本当に泣ける。



涙を見せることは、誰かを悲しませる。
なら、ずっと笑おう。笑ってみんなを幸せにしよう。
そうすれば、きっとーーーー。


「           」
「う、う」
待つしかできない自分が、悔しい。
心無いことを言ってしまった。
助けようとしてくれてたのに、どうせ何も変わらないと思って。
何度も、何度も。

思えば、すぐに助けを求めなければいけなかったのだ。
あの時…全てが始まった時に恥もなにもかもを捨てて、助けてと言うべきだった。
迷惑をかけてしまうと、悲しませてしまうと黙ってはいけない場面だったのだ。



今となっては、何もかもが遅いけれど。



「みんなは怒るかもしれない。今まで助けを求めなかった俺が、いきなり助けてなんて言うことを」
強欲と言われても何でもいい、自分はみんなと…“彼”と生きる明日が欲しいのだ。
待つことしかできないなら、待とう。
心さえ負けなければ、自分は負けることはないのだから。
だからーーーあとはみんなを信じるだけ。



突然、空にオーロラが架かる。
右端は明るく、左端は暗いという奇妙なそれは、もう見慣れたもの。
呼んでいる、続いているのだ…まだ、終わってなんかいないのだ。


目尻に残った水滴を乱暴に拭い、唇を引き締めて円堂は歩く。
今度こそは、と祈りにも似た思いを、希望を願って。







「そう思っても、それが叶えられるはずはないのに」








願い人
(どうかみんなと、またいっしょに)






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