だって、君だから
風丸×円堂







「ほら、早く口を開けろよ」
「ちょっと、待ってくれよ、かぜまるぅ…」


頬を朱に染めた円堂の口に、卵粥を掬った蓮華を入れる。
乱暴に入れてしまったが当の円堂は何も文句を言うことなくそれを咀嚼していた。
「全く…どうして台風が来てるのに特訓なんかするんだよ。今日明日は試合がないからって、油断しすぎだ」
「うー…、もう久遠監督と響監督に散々絞られたんだから言わないでくれよ…」
「お前は何度言っても聞かないだろうが。これに懲りたらちゃんと人の言う事は聞いておけよ」
そんな会話をしながら風丸は蓮華を次々と円堂の口に運び、円堂はそれを食べる。

そうしているうちに10分が過ぎ、作ってもらった卵粥はなくなっていた。


「あー、美味かった…。ちょっと気分が楽になったなぁ」
「木野達にお礼を言っておけよ。毎回心配させてるんだからさ」
「わかってる。いっつも迷惑かけてるんだよな、俺」
「こら」
バンダナを外した円堂の額をデコピンで叩く。
力は弱めにしたはずだが、痛そうな顔をされてしまう。
「そこまでは言ってないだろ。確かに心配はかけてるけど迷惑はかけてないさ。しょっちゅうあると流石に困るけどな」
「う、うぅ。以後気を付ける…」
「よろしい。…じゃあご飯も食べたし、そろそろ寝た方がいいな。冷えピタも温くなってきたし、替えを持ってきてやるから」

椅子から立ち上がり、部屋を出ようとする風丸のジャージを、円堂が掴む。
そのままくん、と引かれて風丸は止まる。
「あ、あのさぁ…お願いがあるんだけど」
「?飲み物はまだあるだろ?」
「や…えと。ううん、やっぱり…いいや」
「………円堂」
いいと言いつつも、離さない円堂に溜息を吐いて風丸は椅子に座りなおす。
「なにかあるならちゃんと言えよ…昔からお前の悪い癖だぞ」
風丸に凝視されて、円堂は口を開く。


「……あ、あのさ。いっしょにねて…くれないか?」
「…は」



恐る恐るといった様子の円堂が言ったのは、要するに添い寝をしてほしい、ということだった。
(この場にヒロトや立向居がいなくてよかった…!!)
そっと胸を撫で下ろし、円堂を見る。
当の本人は顔を真っ赤に染めて俯いていて、表情は見えない。
(そういえば、昔もこんなことあったけな)

昔―――まだ自分と円堂が小学生だった頃。
川辺で一緒に遊んでいた友達が誤って落ちてしまい、それを円堂が助けようとしてずぶ濡れになったことがあった。
勿論近くにいた大人によって友達は助け出されたが、当然のように円堂は風邪をひいてしまい、温子さんに大目玉をくらってしまったのだ。
そしてそんな円堂の看病に来た風丸は、幼いながらに円堂を助けられなかったことに罪悪感を感じていて、訊いたのだ。


『なにかしてほしいこと、あるか?』




「―――お前は、本当に変わらないなぁ」
そう言って、風丸は円堂の手をギュッと握る。
シングルベットに2人寝るのは窮屈だけれど、体をなるだけくっつけて一緒に横たわる。
いつもより高い円堂の体温と、さっきよりも赤い頬は本当にあの頃と変わらない。
「…むかし、お前といっしょにこうやって寝たっけ」
「あぁ。まさかこんな年になっても言う事は同じなんてな」
少しだけ揶揄ると、握った手をさらに強く握りしめられた。
「べつにいいじゃんか。…風丸の隣って、おちつくんだ。だからお願いしたのに」
「ハイハイ。…いい加減寝ないと早く治らないぞ。試合は無くても練習はあるんだからな」
「わかってる。ありがとな、風丸。面倒見てくれて…」
「気にするなよ。俺が好きでやってるんだから。お前は早く風邪を治してみんなに元気な姿を見せてやれよ」
「ん、…おやすみ風丸。これで、いい夢がみれそう…、ごめん、な」

目を閉じてそのまま寝入ってしまった円堂の頬に、軽く口付けをする。
「だから迷惑じゃないって言ってるだろ。…バカまもる」







あまりかわらないぼくら
(変わったのは体と、気持ちの大きさ)





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