オルダーソンループ








 を無くしてしまったら はどうやって  ばいいのだろう。
いくら本を見てもいくら調べてもそんなことは書いてやしない。
どうやっても変えられることのない、真理なのだから。





「…君は、きっと満足しているんだろうね」
ヒロトは佇む、自分の部屋のベッドに横たわって。
膝を抱えて蹲るその手にはオレンジ色のバンダナ―――円堂が残したそれがしっかりと握られていて、放そうとする様子はない。そう、これは円堂がヒロトだけに残した唯一の物。
彼の未練や苦悩を物のように具現化したもの。
「俺達を守って、君はいってしまった」

誰にもその姿を見せずに太陽は沈んでしまった。
永遠の眠りに、永劫の安寧にその身を委ねて。
「君という恒星は無くなって、もう空は暗闇の様だよ。――ほんとうは、俺たちは」
そこまで出かかって、ヒロトは咄嗟に唇を噛むことによってその言葉を殺す。
言ってはいけない、それを言うことはタブーだと周囲は言うけれども。
(タブーが何だ、もう円堂君がいないという事実だけでタブーじゃないか)
そう思って、ゆっくりと言葉を声に出す。
「…本当は、俺達は君を守らなきゃいけなかったんだ」




『       』


その瞬間。
「―――ッ、うあ、あ、 あ   あ あぁあ  あ!!!!」
ヒロトは悲鳴を上げ蹲る。
双眸からは涙が滴り落ちてシーツにぽつりぽつりと後を残すのみ。
「えんど、うぐ…!  円堂 ぐ  ん  ! あああぁああぁあああぁ…ッ」
本当は誰だって気づいていた。彼を守らなければならないということを。
しかしその守ろうとする人物は自分から死を望み、そしてそれを自分の確固たる意志として確立させていた。

だからヒロト達は逃げたのだ。抗うこともせずに、受け入れるという裏切りを犯してしまったのだ。
本当に円堂がそれを望んでいるかなんて分かりやしないのに、勝手に仮定して勝手にそれを強要して。


ひたすらにヒロトは円堂の名を呼んで涙を流す。
まるで体中の水分を絞るように、ただひたすら。
バンダナを握りしめて人目も憚らずに泣く。
「ごめんね円堂君…っ、まもる…ッッ!!!!」
いっそ、痛々しいほどに。




そうしてどれぐらい経っただろうか。
ヒロトはゆらりと立ち上がり、手に持っていたバンダナをそっと放す。
「…日の光が無ければ、闇になってしまう。俺は確かに星は好きだけれど、ずっとはいらないよ」
そう呟いて、ヒロトは昔―――といってもエイリア時代だが―――読んだ北欧神話の本を思い出す。
スコル、という神が太陽を食べようとずっと付き纏っているという話。

思えばそれは酷く自分とリンクしている錯覚すら覚える。



だって、ヒロトは今から円堂を追いかけようとしているのだから。




「君がいたから、君という存在があったから俺はこの世界にいられた」
傷つけたりもした、騙したりもした。
けれども円堂はいつも笑って受け入れてくれていた。

まさしく太陽のように。



「そんな君がいなくなってしまった世界になんて、俺はとても生きれやしないよ。だって守が俺の生きる手段だから」
そう言い放ってヒロトは勢いよく扉を開けて部屋を出る。
手にしっかりと円堂のバンダナを握りしめて。



墜落、斜陽、もしくは堕天。
この気分の高揚を、絶望をヒロトは決して忘れないだろう。


なにがあっても、ずっと。



「守、守。俺も今行くから。君を追って、どこまでもいくから。だからお願い



どうか俺が次生まれる世界でも、君がいてくれますように。」






追い人
(まっていて、すぐにおいつくから)









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