李苑さんへ | ナノ






禁断の果実は、一般的には林檎の姿を模しているという。
だったら恋の果実とはどんな姿をしていて、どんな味がするのだろう。






(おいしそう)
そんなことをふと思って、ロココは目の前の美味しそうな実に噛り付いた。
「いってえええぇぇええぇ!!」
…勿論、悲鳴付きで。




「大丈夫?円堂君」
宿福の簡単な医務室、円堂は秋に手当を受けていた。
「だ、大丈夫だ。…ちょっと痛いけど」
「またクッキリと痕が残りましたねぇ、キャプテン」
「ふう…大介さんにしっかりと言っておかないと」
「守くん、もっと痛くなったら後でお医者さんに行った方がいいよ」
手当を受けた円堂の頬に貼られたガーゼの下には、ロココに噛み付かれた痕が残っている。


ただ単に2人してじゃれあっていただけなのだが、突然ロココが円堂の頬に噛み付いてしまったのだ。
そのせいでジャパンメンバーの怒りがとうとう沸点に達してしまい、コトアールメンバーが迎えに来るという事態になり円堂は手当を受け、ロココはエリアに帰ることになってしまう。
「でもなんでロココがいきなり円堂くんに噛み付いたのかしら…?確かにあの子には野生っぽいところもあるけど、いきなり人を傷つけるなんて」
「んー、まあなんとなく理由は分かるような気はするんだけどね」
「?まあとりあえず手当ありがとな。…ロココって、コトアールエリアに戻ったのか?」
「そうですね。なんか豪炎寺先輩に似た人に引きずられていきましたけど」
それを聞いて、腰に巻いていたジャージを円堂は羽織る。
「ちょっと言ってくるな」
「う、うん…気を付けてね、守くん」
冬花の言葉を背に円堂は医務室を出て行った。





「まったく、お前はなにをしているんだ」
コトアールの宿舎、豪炎寺に似た人物ゴーシュがロココに説教をしている。
そんなお小言を聞きながら、ロココはぼんやりと考えていた。

(どうしてボクはマモルに噛み付いたりしたんだろう)
確か2人で新しい必殺技について話していたことはちゃんと覚えている。
でも、そこからなんでマモルのほっぺに噛み付いたかが分からない。
あの丸いほっぺが果物みたいに見えて、そこからは正直覚えていない。
次の瞬間、マモルの悲鳴がロココの鼓膜を強烈に刺激する。
そして見たのはマモルのほっぺにくっきりと残った、歯型の痕だった。



「ねえゴーシュ、ボクのほっぺて美味しそうに見える?」
「…とりあえずファイアートルネードでも喰らわせて頭冷やさせるか」
そう言ってボールを探し出したゴーシュの視線を掻い潜ってロココは部屋から抜け出す。
宿舎を出て向かうのはエリアのはずれにある大きな木。
なにかに誘われるように、足を踏み出した。





あの時、痛みが訪れる一瞬前に円堂はハッキリとロココの顔を見ていた。
ぼーっとしたような顔、夢中になっているような表情に何故かドキリとしたのも事実。
でも本当に謎なのだ。どうしてロココが自分のほっぺなんか噛んだのか。
(俺のほっぺなんて美味しいわけないのに―――あれ?)

なんで俺、ロココのほっぺ美味しそうなんて思ったんだろ。





さわさわと、木々が風に揺られて涼しげな音を奏でている。
ここはコトアール本国の故郷にある林にそっくりで、時折練習後に来ていたりする。
ふと視線を上にあげると、視界に入ったのは掌に収まるほどの果実。
おもむろにそれをもいで口元に運ぶ―――が、どうも噛り付く気にはなれない。
(この実よりも、マモルのほっぺのほうが絶対おいしい)
確かにあの時、甘美な味がしたのだ。
今まで食べた果物よりも、甘くていい香りを自分の全てが認識したのを。


「ロココー!!?」


中心部から離れた処に、マモルの声が響く。
それをどこかで冷静に捉えながらも、ロココは慌てて木から飛び降りた。





「わっ!!」
「マモル、こんなとこまでどうして来たのさ。ジャパンの人たちに止められなかったの?」
「ロ、ロココ!!迷子になっちゃったかって心配しただろー!!?」
そう円堂は叫ぶと、ロココに抱きつく。
いきなりのことに驚きつつも円堂をしっかりと抱きとめてロココは溜息を吐いた。



「…そっか、じゃあお互いに抜け出してきた感じになっちゃうんだね」
「まあな。そんなに心配することでもないと思うんだけどなー」
唇を尖らせる円堂を、ロココは見やる。
どうしてもほっぺに目が行ってしまう。
ガーゼに覆われたその反対側、丸みを帯びた頬に目が釘付けになる。
「マモ、ル」
ロココの歯が、また円堂の頬に牙を立てるその前―――



円堂が、ロココの頬を両手で挟んだ。
「―――へ?」
途端にロココの思考は止まる。
目の前にいるのは円堂、そしてこの顔が少しずつ近づいて…


「いったいいぃいぃ!!!!」

ロココの頬に、噛み付いた。



「いたたた…」
「んー?んー…」
頬を押さえるロココと、首をかしげる円堂というなんとも変な光景である。
「マ、マモ…。どうしてほっぺ噛むの」
「なんか、ロココのほっぺ美味しそうだったから」
何でもないように言う円堂を見て、ロココも笑う。
「やっぱり似た者同士って言われるだけはあるね」
「ごめんな、痛かったか?」
そう言って噛み付いた頬に円堂は手を当てる。

「―――」
(そうだ、違うんだ)
ロココにとって、本当に食べたかったのは、触れたかったのは頬じゃない。
そのすぐ横、少しずらせばすぐ触れえる場所。



「…ね、マモル」
「んお?どうした、ロコ」





円堂の言葉を遮って、ロココは触れる。
両頬の両横、間にある―――唇に。

触れるだけでは飽き足らずに、少し力を込めて食む。


「ふ、え」
「ごちそーさま、マモル」
顔を真っ赤にしている円堂と、自分の唇をペロリと舐めるロココ。
そのまま膝裏と背中に手を当てて、持ち上げる。
「マモル、もっと食べた方がいいよー。軽すぎ」
「なっ、軽いってなんだよ!!」
体を少しひねってロココの胸元を叩くが、全然効かずに。


「そーんな可愛いことしてるならもっかい噛み付いていいかな?」
「う、」

ロココの意地悪な言葉を聞いて、円堂は大人しくなる。
そんな可愛らしい様子に、またロココは唇をロックオンするのであった。







お揃いの傷痕
(互いに主張するマーキング)





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以上、李苑さんリクエストの『ロコ円』でした。
ちょっと私の願望=「円堂さんの頬はみはみしたい」が顕著になってます…申し訳ない。
ロコ円は本当にネタに困らなくて困ります。多すぎて吟味するのも大変大変。
アニメ版もそろそろロココが本格的に登場しそうなので、ロコ円がもっと増えてほしいなぁ。
あ、今回の2人は友達以上恋人以下な雰囲気です。甘いのもいいですよね!
李苑さん、お待たせしてしまってすみませんでした。
いつでも書き直し承ります!!リクエストありがとうございました!!

〜この小説は李苑さんのみお持ち帰り可です〜