少女U
ウルビダ→円堂




恋をすると、どんな人間も変わる。
そんな内容の本を鼻で笑ったのはそう遠くないこと。
そう、完全に馬鹿にしていたこの事象は真実なのだと知るのは、突然だった。





「…はぁ」
ついつい、ウルビダは溜息を吐いてしまう。
星の使徒研究所は無くなり、今現在エイリア学園生徒は保護観察の名目で雷門中に通っている。
元々学園、とは言っても大抵は吉良の望みを叶える為にサッカーに明け暮れていたため、学校という施設を知らずに育っていた。
そもそも、吉良の計画が成功していたならば、そんな日は一生訪れることはなかっただろうが。


「なぁによう、ウルビダ。そんな溜息吐いちゃって」
「…キーブ。授業中に貪る惰眠の味はどうだった?」
ウルビダは前の席、先程の数学の授業を夢の世界で過ごしていたキーブに向かって、容赦なく皮肉を浴びせるが、その本人は全く気にする気配も無い。
「まぁまぁ。で、お悩みの内容は?胸が大きくて肩こりが酷いこと?ヒロトが変態行為を円堂守に繰り返すこと?それともその―――」


円堂守のこと?



その名を聞くだけでウルビダの心拍数は上昇し、頬も熱くなる。
それと同時に、頭の中が真っ白になってなにも考えられなくなってしまう。
完璧に、恋する者の症状である。




「あっ、やっぱりビンゴ?そうだと思ったのよー」
あなた、態度で丸分かりだものね。というキーブの言葉が、ウルビダの意識を引き上げる。
「わ、分かりやすいのか!?本当に!!!??」
まさかそこまで食いつくとは思わなかったのか、目を丸くした後妖艶な笑みを浮かべる。

「…なんか、嬉しいわね。エイリア時代のあなたを知っていると、生き生きして見えるわ」
そう言われて、ウルビダは少しだけ昔を思い出してみる。

グランからはツンが大抵を占めていて可愛くないと言われ、コーマにはもうちょっとだけでもいいから女の子然とした方がいいと言われたことを思い出した。
それを踏まえてのあの本―――恋をする人間は、誰もが羨むように変わるという内容。
そこまで思い出して、急に恥ずかしくなる。

(なにが馬鹿馬鹿しい、そんなの麻薬と同意だ。よ、…バカなんじゃないか昔の私)






どれだけ思考に入り浸っていたのだろうか、ふと顔を上げるといつのまにか授業が始まっていた。
急いで教科書を開き、ノートに日付と黒板に書かれている文字を書く。そんな中、ウルビダの脳裏に甘い誘惑が迫る。
先程のキーブの様に、眠りに堕ちてしまえば。
そうしたら、円堂と一緒にいられるだろうか―――例えそれが夢、非現実であっても。



至ってしまえば行動は早い方が良い。
熱弁を披露しだした教師に見つからない様にノートと教科書を閉じて重ね、その上にペンケースを枕代わりに置く。目を閉じながら、ウルビダはその瞼の裏に想い人の色を乗せる。
(夢でも逢えれば良い。例えそれが私のエゴでも。)
暗い視界の先に、オレンジ色のバンダナが見えた気がした。








(初恋の味はなんの味?)


(あれ、キーブ。ウルビダはどうしたんだ?)
(色々考えて疲れちゃったのよ)
(そうなのか…ウルビダが起きたら俺が捜してたって伝えてくれないか?)
(了解、任せてちょうだい)









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